7523 ≪江戸川乱歩全集⑦ 吸血鬼≫

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≪江戸川乱歩全集⑦ 吸血鬼≫

江戸川乱歩全集 第七巻
講談社 1979年1月20日/初版
江戸川乱歩 著

  沼津市立図書館にあった本。 ハード・カバー全集の一冊。 箱やカバーがあったものと思いますが、外されて、ビニール・コートされています。 かなり、くたびれています。 二段組みで、長編2作収録。


【吸血鬼】 約190ページ
  1930年(昭和5年)9月から、翌年3月まで、「報知新聞」に掲載されたもの。

  金持ちの未亡人を取り合う賭けで、負けた男が自殺するが、その後、勝った青年と未亡人の周囲に、顔面を酸で侵された男が現れ、死体消失事件や、子供の誘拐事件が起こる。 明智小五郎と文代助手、小林少年らが、体を張って、複雑な事件の真相を暴く話。

  以下、ネタバレ、あり。

  タイトルの「吸血鬼」は、内容とは、直接、関係ないです。 間接的にも、遠い。 なぜ、こんなタイトルにしたのか、首を傾げてしまいます。 犯人が複数いるのですが、別に共犯でもなく、言わば、リレー式に犯罪が行われて行くところが、話を複雑にしており、読者が推理しながら読める作品ではありません。

  江戸川さんの長編にしては、子供騙しっぽさがあまり感じられず、本格トリック物と、アクション活劇をうまく融合してあります。 出だしの、毒杯による決闘場面にしてからが、大人向けとしか言いようがない。 【一寸法師】でも感じましたが、江戸川さんは、濃厚な情景描写を、読者に飽きさせずに書く能力があり、それが、この作品の冒頭でも活きているのです。

  私は、作者が誰かに関係なく、アクション場面なんか、ちっとも面白いと思わない人間なんですが、この作品の中の、文代助手が誘拐されてから、生還するまでの展開は、弥が上にも引き込まれました。 蝋人形が着ていた軍服を奪って、難を逃れる場面は、白眉。 ミリタリー趣味がない人でも、カッコ良さを感じるんじゃないでしょうか。 もっとも、この時代の日本女性は、今からでは想像もつかないくらい、背が低く、脚も短いのですが・・・。 

  この作品で、最もぞくぞくするのは、屋敷の地下にある井戸が出て来る場面でして、複数の死体が投げ込まれているのですが、その中に、未亡人母子を匿ったり、最後の謎解きの段になっても、死体がまだ、そのままになっていたりと、死臭紛々、行間から臭い立って来るかのようです。

  一方、未亡人母子が、火葬場の窯の中で焼かれそうになる件りは、作者としては、一押しの場面だったと思うのですが、読者側からすると、助けられるに決まっていると思って読んでいるので、そんなに怖くはありません。 その場面、江戸川さん独特の、露悪趣味なんでしょうな。


【白髪鬼】 約107ページ
  1931年(昭和6年)4月から、翌年4月まで、雑誌「富士」に掲載されたもの。

  妻と親友の三人で遊びに行った先で、崖から落ちて死んだ男が、先祖代々の墓所の中で蘇生する。 棺桶から這い出し、墓所からの脱出口を探し出し、地上に生還したが、それまでの恐怖によって、黒々としていた頭髪が、すっかり白髪に変わっていた。 屋敷に戻ると、妻と親友が、宜しくやっているところを目撃してしまい、しかも、崖から落ちたのも、親友の計略だと分かる。 復讐を誓った男が、墓所の中で見つけた、海賊の財宝を資金にして、親友と妻に、自分と同じ恐怖を味わわせようとする話。

  私は、母が所有している角川文庫で、この小説を一度読んでいるのですが、復讐譚である事以外、綺麗さっぱり忘れていました。 読み返してみて、大変、面白かったのですが、なぜ、細部を忘れてしまったのか、不思議です。 割と、よくあるパターンなので、記憶している必要なしと、脳が判断したのかも知れません。

  江戸川さんのオリジナルではなく、イギリスのマリー・コレリという女性作家の【ヴェンデッタ】という作品を、翻案したものだそうで、そう言われてみれば、ヨーロッパの近世文学によくありそうな話ですな。 大デュマの【モンテクリスト伯】も、同じタイプの話で、そちらと比べた方が、伝わり易いでしょうか。

  以下、ネタバレ、あり。

  江戸川さんらしいと言えば、主人公が、自分を陥れた妻と親友を、容赦しない事でして、死ぬほどの恐怖を味わわされたとはいえ、死ななかったのですから、復讐するにしても、命までとらなくてもいいだろうと思うのですが、そこを、不屈の精神で、最後まで遂行するのです。 親友なんか、コンクリートの天井に押し潰されて死にます。 露悪趣味ですなあ。 そこまで、やるかね?

  仕返しし過ぎである点を、不自然と捉えられないように、前置きで、「自分の家系は、復讐心が強い血統である」といった事を言わせていますが、どう聞いても、言い訳。 そもそも、なぜ、こんなに復讐を徹底するかといえば、生きながらの埋葬で、白髪になるほどの恐怖を味わわされたのが原因ですが、崖から落としたのは、親友の仕業としても、生きたまま埋葬されたのは、本人が仮死状態だったからで、妻や親友が、わざとやったわけではありません。 恨むピントが、ズレてやしませんかね?

  とはいうものの、この作品は、確実に、読んで、面白いです。 私が、江戸川さんの代表作を挙げろと言われたら、今の所、ベスト5に入ります。