7411 ≪赤い水泳着≫

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≪赤い水泳着≫

横溝正史探偵小説コレクション①
出版芸術社 2004年9月15日/初版
横溝正史 著

  沼津市立図書館で借りて来た本。 角川旧版の終了後、割と近年になって発行された、落穂拾い的な短編集です。 横溝さんの、投稿時代から、戦中までの作品、14作を収録。 一応、ページ数を書きますが、二段組なので、そのつもりで。 【悲しき郵便屋】は、角川文庫版、≪恐ろしき四月馬鹿≫で、【薔薇王】は、同、≪悪魔の家≫で、感想を書いているので、省きます。


  以下、ネタバレ、あり。 数が多いので、いちいち、気にしてられません。 大丈夫。 ショートショートではなく、短編ですから、ネタバレしても、大した問題はありません。 面白いものは面白いし、つまらないものはつまらないです。 発表年と掲載雑誌のデータは、ややこしくなるので、割愛。


【一個のナイフより】 約7ページ
  手に入れた、一本のナイフの様子から、その持ち主を推理する話。

  ホームズがよくやる、観察と分析で、相手の素性を言い当てる、あれですな。 元を辿れば、デュパンの特技ですが。 推理は当たっていたが、犯人ではなかったという、毒気の薄い話になっています。


【紫の道化師】 約21ページ
  スリが、すろうとした相手に捕まり、ある屋敷に連れて行かれて、命令のような言葉を羅列した文章を読まされる。 その翌日、検事の屋敷で、その息子が殺される。 数年前に姿を消した凶賊、「紫の道化師」が、犯人かと思われたが、実は・・・、という話。

  草双紙趣味の活劇です。 なので、面白いといっても、知れています。 催眠術と、マイク、スピーカーを使い、遠隔殺人を行なわせるというのは、戦後の少年向け作品で再利用されています。 電気仕掛けは、当時としては、最先端のトリックだったのでしょう。


【乗合自動車の客】 約11ページ
  終列車を逃した客が利用するバスで、たまたま乗り合わせた男に、一ヵ月前に手術した腕の傷痕を見せてくれと言われた人物が、しぶしぶ、見せようとすると、突然、相手の男が、刑事に逮捕されてしまい・・・、という話。

  ほんの短い話なりに、内容が希薄。 そもそも、不思議なところも、奇妙なところもないのだから、面白がりようがありません。  


【赤い水泳着】 約15ページ
  海辺のホテルで、風景画を描いていた女性が、遠くに干してあった赤い水泳着から、赤い液体が垂れているのを見て、犯罪が行なわれた事に気づく話。

  表題作ですが、全然、大した事はありません。 この作品、戦後になって、【赤の中の女】という、金田一物の短編に書き改められますが、さすがに、「赤い水着なので、付着した血が分からなかった」という謎は、子供騙しっぽいと思ったのか、謎の部分は、他の物に入れ替えられています。


【死屍を喰う虫】 約17ページ
  丘の上にある、三軒の家。 一軒の主が、掘っている途中の井戸に落ちて死に、事故死として処理されたのを、その息子が、罠を仕掛けて、犯人を炙り出す話。

  登場人物が少ないので、犯人はすぐに分かります。 この作品の読ませ所は、犯人を炙り出す方法と、井戸にどうやって落としたか、その謎なのですが、どちらも、至って他愛ないもので、一見面白そうに感じられる舞台設定の細かさと、吊り合っていません。

  角川文庫版、≪恐ろしき四月馬鹿≫収録の【丘の三軒家】が原型になったらしいです。 梗概と感想は同じなので、そちらから、移植しました。


【髑髏鬼】 約24ページ
  髑髏のような顔をした人物が、夜な夜な目撃され、騒ぎになっている界隈。 資産家の屋敷で、その家の令嬢が、秘密を握る男に脅され、結婚を迫られていた。 それ以前に、その屋敷で養われていた兄妹の内、兄の方が行方不明になっていて・・・、という話。

  髑髏男が不気味なだけで、別に、面白いところはありません。


【迷路の三人】 約23ページ
  ある夜、廃墟の迷路へ、肝試しに行った三人連れの内、一人が殺される。 たまたま、近くにいた由利先生が、ショールに付いた燐から、犯人を特定する話。

  これは、外国作品の翻案らしいです。 由利先生を引っ張り出すほどのボリュームではないです。 好ましい性格の人物が殺されてしまうので、何となく、読後感が悪いです。


【ある戦死】 約14ページ
  新聞を読んでいて、かつて、友人の妻を奪って逃げた男が戦死した事を知った主人公が、病身の友人から、雑誌に出ていた映画女優のしている指輪の出所を調べてくれるように頼まれる。 その指輪は、友人が妻に贈った物だった。 ある青年が指輪を手に入れた経緯を語り、真相が明らかになる話。

  面白いです。 この短編集の中だけでなく、私が今までに読んだ横溝さんの短編の中で、最も面白かったです。 書き方が巧みで、事件の様子が、少しずつ分かって来るところが、秀逸。


【盲人の手】 約12ページ
  本州で食い詰めて、北海道へ流れて行く船の中で、小金を持っている老人に誘われ、妻になった女が、老人が変死した後、一人で、本州へ戻る船に乗るが、その船には、老人が飼っていた犬も乗っていて・・・、という話。

  作品よりも、この梗概の方が面白そうだな。 一見、社会派風ですが、シンプルなストーリーに、それっぽく肉付けしただけです。 ラストは、なぜ、そうなるのか、よく理解できません。


【木馬に乗る令嬢】 約14ページ
  毎日、アメリカ人女性と、回転木馬に乗りに行く令嬢が、実は、スパイの手伝いをさせられていた、という話。

  回転木馬の、様々な色の木馬に乗り移る事で、暗号を伝えていたというトリック。 横溝さんが書きたかったのは、トリックの方で、スパイの暗号にしたのは、戦時下に、戦争協力しているように装わないと、作品が検閲で落とされる恐れがあったからだと思います。


【八百八十番目の護謨の木】 約ページ
  ある殺人事件で残された、「○谷」というダイイング・メッセージが、「大谷」ではなく、ボルネオ島のゴム農園にある、「○八八○」番の木の事ではないかと気づいて、わざわざ、ボルネオまで訪ねて行く話。

  これも、戦時下シフトの作品。 謎が、子供騙し過ぎます。 これなら、【木馬に乗る令嬢】の方が、よく出来ていました。


【二千六百万年】 約17ページ
  遠い未来に、人類社会がどうなっているかを、睡眠によって、時を超え、見に行く話。

  もろ、SF。 自力で空を飛べる未来人類が出て来ますが、背中に翼を付けるのではなく、蝙蝠に近い皮膜にしてあるのは、さすが、理系の作者だと思わせます。 全体のアイデアは、ユートピア小説というより、ウェルズの、≪タイムマシン≫が元になっているのではないでしょうか。

  実は、これも、戦時下シフト作品で、どうせ、探偵小説が検閲で落とされるのなら、SFにしてしまえという、開き直りで書いたもののようです。 そんなに面白いものではないです。 ちなみに、横溝さんのSF趣味は、戦後の少年向け作品で、いくらも見る事ができます。