7271 ≪喘ぎ泣く死美人≫

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≪喘ぎ泣く死美人≫

角川文庫
角川書店 2006年12月/初版
横溝正史 著

  三島市立図書館の書庫にあった本。 角川文庫の横溝作品ですが、新版で、22作目に当たるもの。 カバー表紙は、書で、文字は、「泣」。 単行本や文庫に未収録の中・短編を集めたもので、ショートショートも含めて、18作も収録されています。 一作一作、感想を書くと思うと、頭がクラクラするので、ごくごく簡単なものにしようと思います。


【川獺】 約32ページ 
(ポケット 1922年7月)

  池に通い、川獺の妖怪に魅入られていると噂されたいた女が、死体で池に浮かび、続いて、その継母が殺され、更に、村一番の美人までが殺される。 若い和尚が疑われるが、実は・・・、という話。

  短い割には、入り組んだ話で、とても、犯人を推理しながら読むなんて事はできません。 山村の池という舞台設定が良いので、ゾクゾク感は、かなりあります。 疎開前にも、こういう作品を書いていたんですねえ。


【艶書御要心】 約16ページ
(サンデー毎日 1926年10月1日)

  人の真似をして、年頃の女性の袂に、自分の名刺を、片っ端から入れて回ったものの、反応がなく、空振りしてしまった青年が、たった一通届けられた手紙につられて、映画館へ出かけて行ったところ・・・、という話。

  新商売のアイデアを先に思いつき、作品に盛り込んだという格好。 その点では、【ネクタイ綺譚】と、同趣向の作品です。 別に、面白くはありません。


【素敵なステッキの話】 約18ページ
 (探偵趣味 1927年7月)

  人から貰ったステッキをなくしたと思ったら、知人達の間を、勝手に持って行かれたり、譲られたりと、一本のステッキが、あちこち、巡り巡って行く話。

  話というほどの話ではなく、「素敵=ステッキ」というダジャレから思いつき、テキトーに捏ね上げたような、軽い話です。 オチのようなものはないので、期待せぬように。


【夜読むべからず】 約12ページ
(講談雑誌 1928年8月)

  片手、片脚、首の順で、もげ落ちるという、特殊な蜘蛛から採った毒を使い、妻の浮気相手を殺そうとする話。

  イギリスが舞台で、出て来るのも、イギリス人です。 こういうのも、あったのか。 現実には存在しない生物や、毒物を、モチーフに使うのは、推理物では、禁じ手ですが、シャーロック・ホームズの短編の中に、例があるせいか、昭和初期くらいの日本では、あまり、気にしていなかったのかも知れません。

  意外な結末が用意してあって、存在しない毒を出さなくても、話にできるような内容ですが、この作品の眼目は、その毒による惨たらしい死に方を描く事にあり、やはり、破格と言わざるを得ません。 ホラーとして読むのなら、問題なし。 そんなに、怖くありませんが。


【喘ぎ泣く死美人】 約16ページ
(講談雑誌 1929年7月)

  幽霊が出る屋敷を買って、住み始めた夫婦。 妻の方が、幻覚を見て、過去に屋敷で行なわれた犯罪の仔細を知る話。

  これも、イギリスが舞台。 イギリス人と、アメリカ人が登場人物です。 ホラーでして、推理小説ではないです。 幻覚の中で、投げ捨てられるのを見た剣が、正気に戻ってから調べたら、その通りの場所から出て来た、という、そこだけ、ゾクっとしますが、そんなに面白いわけではないです。


【憑かれた女】 約90ページ
(大衆倶楽部 1933年10-12月)

  酒の飲み過ぎで、幻覚を見るようになった女が、実際の殺人事件に巻き込まれていく話。

  これだけ、中編。 同じタイトルで、由利先生物に書き改められたものが、他にあるらしいですが、私は、未読です。  戦前の作品とは思えないほど、新しい感じがします。 由利先生どころか、金田一が出て来ても、おかしくないくらい。 戦後に書かれた、金田一物の作品には、この作品から分離して、焼き直したと思われる場面が、幾つも見られます。

  推理小説として、かなり、レベルが高いと思うのですが、探偵役がいないせいか、事件が解決しても、すっきりしない終わり方で、そこが、残念です。


【桜草の鉢】 約11ページ
(信濃毎日新聞夕刊 1939年1月7-10日)

  泥棒が高価なネックレスを隠した桜草の鉢植えを、それとは知らずに買ってきた奥さんの家に、泥棒が取り返しに入ったが、何も見つからなかった。 奥さんが、似た鉢植えを、他の所で間違えて持ち帰った事に、後で気づく話。

  シンプル。 あまり、小説を読まない人なら、面白いと感じるかもしれません。 ショートショートとしては、結末の意外性が、今一つです。


【嘘】 約4ページ
(四国新聞 1947年1月)

  ビルマ戦線で、左胸を銃弾で射抜かれたにも拘らず、生還した男が、復員後、メチル・アルコールを飲んで死んだ。 本人の遺言に従い、解剖してみたら、意外な真相が分かった、という話。

  これは、意外だ。 しかも、ありうる事なので、すんなり、腑に落ちます。 それにしても、軽い話です。


【霧の夜の放送】 約5ページ
(主婦之友 1938年7月)

  殺人事件の様子が、ラジオで中継放送されるのを、殺した本人が聞く話。

  意外は意外ですが、こんな事は、現実には、ありえないので、ホラーの部類に入れるべきですな。 面白くはないです。


【首吊り三代記】 約7ページ
(探偵 1931年5月)

  その家の当主になると、みんな、首を吊って死んでしまう家の、三代目を継いだ男が、恐怖のあまり、自分を殺しそうな奴を、前以て、殺してしまおうとする話。

  わははは! これは、凄い! ショートショートというよりは、小話ですが、とにかく、面白いです。 物凄い皮肉な結末になるのですが、それに気づかなかった主人公が、無茶苦茶、笑えます。


【相対性令嬢】 約6ページ
(文藝春秋 1928年1月)

  二ヵ所に同時に存在しているとしか思えない女性の謎を、相対性理論で、簡単に説明する話。

  わはははは! これも、面白い。 謎を、SF的解釈で、強引に説明してしまっていて、話になっていないのですが、とってつけたようなラストに落差があり、大笑いできます。 相対性理論が発表された頃に、書かれたんでしょうかね?


【ねえ! 泊ってらっしゃいよ】 約5ページ
(講談雑誌 1929年4月)

  終電車に乗り遅れ、その後、友人と、知り合いの女性にも置いてきぼりを食わされた男が、最後には、迫って来た娼婦に置いてきぼりを食わせて、逃げる話。

  話になっていません。 よっぽど、締め切りに迫られたんでしょうか。


【悧口すぎた鸚鵡の話】 約4ページ
(新青年 1930年9月)

  利口な鸚鵡を飼っている男爵夫人が、口を滑らして、顰蹙を買い、更に、鸚鵡のおしゃべりで、恥を掻く話。

  つまらない。 アイデアが、生煮えという感じ。


【地見屋開業】 約6ページ
(朝日新聞夕刊 1936年5月21日)

  売れない物書きが、路上でお金を拾う商売に、鞍替えする話。

  横溝さんの初期の短編に良く見られる、珍商売物ですな。 別に、面白い話ではないです。 横溝さん、こういうアイデアばかり思いついていた頃には、小説家でやっていけるかどうか、常に、不安と戦っていたのかも知れませんな。


【虹のある風景】 約9ページ
(近代生活 1929年6月)

  お金を貯めて、ほんの数日だけ、豪華なホテルに泊まり、華族のお姫様を装った事がある女が、そこで知り合った、本物の華族の子息と、虹を見たという思い出を語る話。

  いい雰囲気の話なんですが、ラストが、意外な結末にしようとして、逆に、興を殺いでしまっています。 ほんの数日だけ、貴人の気分を味わうというアイデアは、【角男】でも、使われていました。


【絵馬】 約26ページ
(家の光 1946年10月)

  戦後、岡山県で起きた、老女殺人事件の捜査を進める内に、彼女の故郷の村で起こった、昔の事件まで、芋蔓式に解決してしまう話。

  本物の刑事からの聞き書きという体裁になっていて、「さては、実話か?」と、緊張して読み進めて行くのですが、後ろの方へ行くと、横溝作品らしい展開になり、創作である事が分かります。 それが分かっても、尚、面白いですけど。 金田一を絡ませれば、容易に、金田一物に書き改められるような、濃い内容です。


【燈台岩の死体】 約16ページ
(ポケット 1921年11月)

  燈台の近くで、男が殺される。 神社の神主が逮捕され、否認のまま、懲役判決が出るが、その後、真犯人が分かって、釈放される話。

  ネタバレさせてしまいましたが、この作品の眼目は、誰が犯人かではなく、事件の裏にある相関関係で、人情話を語るところにあり、推理物とは、趣きが異なります。 デビュー作の【恐ろしき四月馬鹿】と同じ年の発表だそうで、最も初期の作品ですから、まだ、どんな話を書きたいか、目標が定まっていなかったのだと思います。

  仮名遣いは新しく改められていますが、漢字の使い方が、いかにも、大正時代という、独特なもの。 慣れないと、読むのに苦労します。


【甲蟲の指輪】 約13ページ
(家庭シンアイチ 1931年7月5日)

  ある青年が、居眠りして乗り越した電車内で、起こしてくれた老婆が急死する。 後になって、それが老婆ではなく、若い映画女優である事が分かる。 彼女の連れで、先に下りた若い男が、青酸カリを盛ったと見られたが、その男の指輪を青年が発見し・・・、という話。

  いろいろと設定が凝っていますが、噛み合っていないというか・・・。 別に、若い女優が、老婆に変装している必要はないのではないかと・・・。 ラストが、取って付けたようなオチになっているのも、感心しません。