7278 ≪怪獣男爵≫

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≪怪獣男爵≫

角川スニーカー文庫
角川書店 1995年12月/初版
横溝正史 著

  三島市立図書館の書庫にあった本。 外見は、真新しいので、「どうして、こんな本が、書庫に?」と思うのですが、発行年を見ると、もう、四半世紀近く経っているんですな。 この綺麗さを見るに、あまり、借りられなかったんでしょう。

  角川文庫の旧版の方は、同じ書名で、1978年に出ています。 ジュブナイルなので、スニーカー文庫という、少年向けのシリーズに再編したのだと思います。 巻頭に、登場人物を紹介したイラストあり。 イメージ・イラストのページあり。 漫画風のコマ割りをしたページあり。 作中に、数枚の挿絵あり。 カバー表紙絵も含めて、全て、漫画風の絵柄です。

  ネット情報によると、1948年11月に、偕成社から出版されたとの事。 書き下ろしだったのか、雑誌連載だったのかは、不明。


  悪事の限りを尽くして、死刑になった古柳男爵が、脳だけ移植した、ゴリラ風外見となって生き返り、閉じ込められていた孤島から脱出して、かつて、自分を捕まえた、小山田博士への復讐を始める。 小山田博士一族と、等々力警部らが、怪獣男爵の巧緻この上ない企みに翻弄される話。

  推理物ではなく、冒険アクション物。 ただし、冒頭の孤島場面を除くと、舞台のほとんどは、都会の中です。 男爵の屋敷とか、金持ちの大きな屋敷の庭とか、教会とか、精神病院とか、サーカスとか。 江戸川乱歩さんの、少年探偵団の世界に、かなり近い雰囲気。 善玉側で、前面に出て動くのが、小学生、中学生、大学生というのは、いかにも、少年向けという感じ。

  あまりにも、次から次へと、事件が起こるので、纏まった一つのストーリーという感じがしません。 少年向けだったから、飽きられないように、見せ場を分散したのだと思いますが、大人の感覚で読むと、こういうのは、逆に、興味を殺ぐところがありますねえ。 小山ばかり幾つもあって、高い頂上がない登山のようなものです。

  脳の移植が、怪獣男爵誕生の大きな鍵になっているのですが、そういう事は、今の医学でも不可能でして、完全に架空の技術です。 その点は、合理性に拘る横溝作品らしくありません。 横溝さんは、薬剤師の免許を持っていた人で、医学知識は、人並み以上にあったはずですから、そんな事は承知の上で、少年向けと割り切って、SFっぽい設定として取れ入れたのだと思います。

  横溝作品に、サーカスが出て来るという事は、猛獣の脱走が必ずあるわけで、例によって、最後には、みんな、撃ち殺されます。 この作品が書かれた時代、動物の命が、いかに軽く考えられていたかが、よく分かります。 犬でさえ、ペットではなく、家畜に過ぎなかったのだから、猛獣なんて、殺しても一向に構わないと思われていたのでしょう。

  解説が、新井素子さん。 解説というより、感想に近い、軽いもの。 新井さんは、SF作家でして、脳移植が、SFっぽいから、頼んだのだと思いますが、畑違いがもろに出てしまったような内容になっています。 解説で、時事ネタを使うと、歳月の経過に耐えられないという、いい例になっている感あり。