7208 ≪不死蝶≫

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≪不死蝶≫

東京文藝社 1972年10月10日/初版
横溝正史 著

  三島市立図書館の書庫にあった単行本。 カバーは、なし。 「三島市立図書館 蔵書 昭和47年11月25日 登録」のスタンプあり。 昭和52年は、1972年。 発行されて、すぐに、図書館で購入したわけだ。 半世紀近く経っているだけあって、もう、ボロボロ。 中ページは外れるわ、破れはあるわ。 極め付けに、後ろの方の数ページに、タイヤ痕だか靴痕だか、黒いトレッド・パターンが付いています。 どうやりゃ、図書館の蔵書に、こんな痕が付くのよ?

  1953年(昭和28年)6月から11月まで、雑誌「平凡」に連載されたもの。 単行本にする際、加筆されたそうです。 この本には、解説がなくて、ネット情報に拠りました。 ページ数は、約330ページですが、この本は、文字が大きく、行間も広いので、文庫版なら、もっと、少なくなるかもしれません。


  信州・射水にある矢部家の当主から、23年前に、次男を殺して逃げた女が、対立する玉造家に滞在している、ブラジルのコーヒー王の養女の母と同一人物かどうか調べるよう依頼された金田一が、両家の間で長年続いている愛憎入り乱れた怨讐を感じながら、両家の間にある鍾乳洞を舞台に起こる、連続殺人事件に挑む話。

  横溝作品には良く出て来る、鍾乳洞や洞窟ですが、この作品では、8割くらいのページ数が、鍾乳洞内の描写に割かれていて、【八つ墓村】や、【迷路荘の惨劇】よりも、更に、地底色が強いです。 横溝さんは、洞窟のもつ不気味な雰囲気を、こよなく愛していたんでしょうねえ。 しかし、鍾乳洞内ばかりなので、舞台変化に乏しく、ちょっと、食い足りない感じもします。

  トリックあり、謎ありで、本格物としても充分な資格があるのですが、語り方が、冒険物のそれでして、会話も多く、ページが、スイスイ進みます。 その点では、この作品のすぐ後から書き始められる、【幽霊男】などの「通俗物シリーズ」と同じですが、この作品では、露悪的な部分が見られず、「戦後は、本格一本で行こう」と決めた気持ちが、まだ残っている頃に書かれたのだと思います。

  二つの旧家の対立というのは、横溝作品の地方物では、定番化していますが、この作品は、意識的に、≪ロミオとジュリエット≫をモチーフにしていて、なんと、ロミオとジュリエット的な関係になる男女が、4組も出て来ます。 明らかに、多過ぎで、そんなに両家で愛し合う者が多いのなら、いっそ、一つの家になってしまえばいいのにと思います。 そういえば、神父が手助けするのも、≪ロミオとジュリエット≫から、戴いているんでしょうなあ。

  古谷一行さんが金田一役で、2回、ドラマ化されていて、1978年の、≪横溝正史シリーズ Ⅱ≫第4作の方は、再放送で見た事があります。 しかし、覚えているのは、竹下景子さんが、鮎川マリ役だった事と、植木等さんが演じた宮田文蔵が、追い詰められて、底なし井戸に飛び込む場面だけ。 ドラマでは、外の場面の方が多いので、鍾乳洞物だという事さえ、忘れていました。

  横溝正史ブームの頃に売られていた角川文庫版の、杉本一文さんの表紙絵が、「夜の蝶」を連想させる、ちょっと、淫猥な感じがする絵でして、それに惹かれて買ったという人もいると思うのですが、内容に、淫猥な部分は、皆無・絶無です。 殺害方法にも、派手なところはなくて、作品全体の雰囲気は、むしろ、品がいい方。