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≪悪魔の家≫

角川文庫
角川書店 1978年3月5日/初版 1993年11月30日/23版
横溝正史 著

  三島市立図書館にあったもの。 これも、90年代に入ってから購入されたもので、程度は良いです。 書庫に入っているのが、残念なくらい。 全7作。 【薔薇王】だけが中編、それ以外は、短編です。

  

【広告面の女】 約34ページ
  1938年(昭和13年)1月、「新青年」に掲載。

  新聞の広告面に、女の顔が部分ごとに描き加えられて行き、一週間かけて完成すると、それは尋ね人の広告だった。 たまたま、さる子爵の邸内に、その女がいるのを発見した青年が、探りを入れていると、そこから瀕死の重傷を負って逃げ出してきた女が、自分の死体を、ある場所に運んでくれるように言い残して死ぬ。 青年が、その場所に行ってみると、意外な人物が待っていて・・・、という話。

  謎はあるけれど、探偵役はおらず、自然に謎が解けるというタイプ。 人物相関が込み入っている割には、話が短か過ぎで、アイデアを安売りした感がなきにしもあらず。 本来、長編の一部分にすべきアイデアだと思います。


【悪魔の家】 約34ページ
  1938年(昭和13年)5月、「富士」に掲載。

  ある夜、三津木俊助が、たまたま出会った女を、その家まで送って行ったところ、悪魔の姿が浮かび上がっては消えるのを目撃し、その家に住む幼女が、「アクマが来た!」と叫ぶ。 やがて、その家の主人が殺される事件が起こる。 その直前に、主人を訪ねて来た、義足の男が疑われるが、実は・・・、という話。

  金田一物にある、【殺人鬼】の、オリジナル版のようです。 しかし、【殺人鬼】の方には、悪魔の姿は使われておらず、大幅に改作されたというか、一部だけ取り出して、再利用されたような感じです。 ちなみに、【殺人鬼】は、同じ角川文庫で、80ページと、2倍以上の長さがあります。

  悪魔の姿、義足の男、せむし男など、ちょっと、怪奇小説の定番モチーフを揃え過ぎていて、この長さで、消化するのは、無理というもの。 その中でも中心になっている、悪魔の姿というのが、種明かしすると、全くの子供騙しでして、とても、戦後の作品では通用しなかったろうと思われます。 だから、書き換えの際に外してしまったわけだ。


【一週間】 約36ページ
  1938年(昭和13年)6月、「新青年」に掲載。

  ある新聞記者が、特ダネ欲しさに、狂言殺人をデッチ上げようとしたが、それが、本当の殺人事件に発展してしまい、殺人犯役だった男に泣きつかれて、「一週間で、真犯人を見つける」と言ってはみたものの、何の手掛かりもなく・・・、という話。

  シンプルな話で、これといった、捻りもありません。 話が単純な割に、結構、ページ数があるのは、新聞記者の生態を、詳しく描写しているから。 あまり、意味のない情報で、枚数を稼ぐ為に、描き込んだように思えます。 ラストは、取って付けたような纏め方。 もし、新人が、出版社の編集部に、こういうのを持ち込んだら、さんざん説教喰らって、返されるのではないかと思います。
  

【薔薇王】 約70ページ
  1939年(昭和14年)4月・5月、「新青年」に掲載。

  結婚式をすっぽかして逃げた贋子爵の男を、すっぽかされた女と、たまたま男の逃走を助けてしまった小説家の女が、それぞれ別々に、捜し出したところ、男の意外な正体が判明する話。

  そこそこ長いですが、エピソードを足して、もっと長い話にした方が相応しい内容です。 それも、推理小説ではなく、一般小説として書くべきような話ですなあ。 推理小説として読むと、全然、面白くないです。 上の【一週間】もそうですが、「新青年」は、横溝さんの古巣だから、こういうのでも、通ったんでしょうなあ。


【黒衣の人】 約30ページ
  1939年(昭和14年)4月、「婦人倶楽部」に掲載。 連載なのか、分載なのかは、不明。

  女優を殺した罪に問われ、未決囚として獄死した兄の無実を信じる妹が、4年後、「蓼科高原で知り合った、黒衣の人」から手紙を貰って、殺人事件があった場所へ行ったところ、今度は、4年前に殺された女優の弟子に当たる女が殺されているのに出くわす。 由利先生と三津木俊助が関わり、謎を解く話。

  推理小説としては、相当、不完全です。 「黒衣の人」とか、「ばら撒かれた碁石」とか、モチーフだけ並べておいて、話の本筋とは、全然、関係ないというのは、どうにも、誉めようがないです。 このページ数で、主要登場人物に加えて、由利先生と三津木俊助の二人を動かすのは、きつい。


【嵐の道化師】 約32ページ
  1939年(昭和14年)10月、「富士」に掲載。

  互いの父親が敵同士という、因果な男女が恋に落ち、将来を悲観して、心中しようとしていたところへ、犬が飛び込んできて、異常を報せる。 女の父親であるサーカスのピエロが、男の父親を殺して、逃げたのだった。 たまたま、通りかかった三津木俊助が、由利先生と共に、謎を解く話。

  三津木俊助という男、たまたま、通りかかり過ぎるのでは? それは、スルーするとして、サスペンス仕立てで、川の上での追撃場面もあり、いかにも、由利・三津木物という感じがします。 私は、あまり、好きではないですけど。 トリックは、すり替わり物で、よく使われるタイプ。

  クロという犬が大活躍しますが、戦前の横溝作品に出て来る動物にしては、珍しく、殺されません。 その点は、安心して読めます。


【湖畔】 約18ページ
  1940年(昭和15年)7月、「モダン日本」に掲載。

  S湖畔に現れる、古めかしい服装をした紳士には、日によって性格が極端に変わる特徴があった。 その紳士が、近くにある古着屋に強盗に入り、大金を盗んで逃げたが、翌朝、湖畔のいつもの場所で、宿のどてら姿で死んでいるのか発見された。 一年後、死んだはずの紳士が現れて、秘密を明かす話。

  以下、ネタバレ、あり。

  これも、すり替わり物です。 顔に痣がある時と、ない時で、性格が違うというので、すぐに、似た顔をした人間が二人いる事が分かります。 その点は、些か、分かりやす過ぎで、捻りがありませんが、湖畔の雰囲気を細かく描き込んでいるおかげか、作品の質は、高く感じられます。 推理小説ではなく、哀愁を感じさせる、一般小説として読んだ方が、味わい深いです。