7201 ≪真珠郎≫

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≪真珠郎≫

新版 横溝正史全集 1
講談社 1975年5月22日/初版
横溝正史 著

  三島市立図書館の書庫にあった単行本。 カバーは、なし。 「三島市立図書館 蔵書 昭和52年11月30日 登録」のスタンプあり。 昭和52年は、1977年。 今の三島図書館は、割と新しい建物の中に入っていますが、この当時は、どこにあったのか、全く不詳です。

  新版全集の第一冊ですが、一体、横溝さんの全集というのは、何種類あるんでしょう? いずれも、全集と言いながら、収録しているのは、有名な作品だけ、もしくは、マイナーな作品だけという、偏った物が多いように感じられます。 図書館の蔵書用に、全作収録した、本当の全集を、どこか、出してくれればいいのに。

  表題作の【真珠郎】が長編、【芙蓉屋敷の秘密】が中編、それ以外は、初期の短編12作を収録していて、全部で、14作です。 その内、【恐ろしき四月馬鹿】、【丘の三軒家】、【悲しき郵便屋】、【広告人形】、【飾窓の中の恋人】、【犯罪を猟る男】、【断髪流行】の7作に関しては、角川文庫版、≪恐ろしき四月馬鹿≫で、感想を書いているので、こちらでは、触れません。


【山名耕作の不思議な生活】 約16ページ
  1927年(昭和2年)1月、「大衆文芸」に掲載。

  突然、安い下宿に引っ越して、病的なまでの倹約生活を始めた男が、それが原因で仲違いしてしまった友人に、そんな生活を始めた、そもそもの理由と、皮肉な結末について、語る話。

  O・ヘンリーの短編的な話。 タイトルが興味を引くので、どんな話かと思っていたら、大した話ではありませんでした。 単なる倹約生活であって、不思議というほどではないです。 皮肉な結末も、こういう流れならば、当然、そうなるであろうという予測がつくもの。


【川越雄作の不思議な旅館】 約12ページ
  1929年(昭和4年)2月、「新青年」に掲載。

  かつて、友人に夢を語っていた男が、奇妙な旅館を経営し始め、友人を招待して、あっと驚かせる話。

  タイトルだけ見ると、【山名耕作】と対になる作品かと思ってしまいますが、内容は、まるで無関係で、登場人物も共有していません。 【山名耕作】は、それでも、O・ヘンリーの短編風で、小説的でしたが、こちらは、出来の悪い落語的な、軽いオチです。 


【芙蓉屋敷の秘密】 約68ページ
  1930年(昭和5年)5月から8月まで、「新青年」に連載。

  白鳥芙蓉という女性が、自分の屋敷で殺される。 犯人が落として行ったと思われる帽子を手がかりに、探偵・都筑欣哉が、謎を解いて行く様子を、その友人の小説家が書き留めた話。

  本格推理物。 解説によると、この頃に横溝さんが書いていた本格物は、大変、珍しいとの事。 探偵と小説家のコンビは、ホームズ物以来、定番化していたわけですが、この作品に出てくる二人は、ホームズとワトソンというより、ファイロ・ヴァンスと、ヴァン・ダインに、圧倒的に近いです。 ≪ベンスン殺人事件≫の発表が、1926年ですから、この作品が出た1930年は、ファイロ・ヴァンス物の黄金期でして、もろに、影響を受けたものと思われます。

  ただ・・・、作品の出来は、あまり良くありません。 本格物をどう書いていいのか、どういう風に語れば面白くなるのかが、まだ掴みきれていなくて、謎の材料だけ並べて、終わってしまった感があります。 この頃には、横溝さん自身が、本格物を読むのに、あまり、面白さを感じていなかったのかも知れません。


【ネクタイ綺譚】 約12ページ
  1927年(昭和2年)4月、「新青年」に掲載。

  自分には不釣合いに美しい女優と結婚した男が、黄色いトンボ型ネクタイの広告戦略に絡んで、一儲けする話。

  この梗概では、ネタバレになってしまいますが、ネタバレを気にするほど、中身が濃くないから、いいでしょう。 儲けるのはいいけれど、これでは、自分の妻の性的魅力を、切り売りしている事になりませんかね? ちょっと、釈然としないところがあります。


【あ・てる・てえる・ふいるむ】 約14ページ
  1928年(昭和3年)1月、「新青年」に掲載。

  後妻に入った女が、夫と映画を見に行った後、夫が失踪してしまう。 やがて、映画の中で、夫が何を見たのか、夫の前妻が、なぜ死んだのかが分かって、戦慄する話。

  映画の中で、ある場面を見た事から、過去の犯罪が露見するというのは、松本清張さんの作品でよく使われるパターンですが、こちらの方が、先に書かれていたわけですな。 しかし、では、横溝さんのアイデアなのかというと、それは分からないのであって、もっと以前に、他の作家によって、使われた例があるかもしれません。


【角男】 約8ページ
  1928年(昭和3年)3月、「サンデー毎日」に掲載。

  「清朝の王族」と名乗って、高級ホテルに投宿した三人の内、雇われていた一人が、たまたま、ある見世物小屋で、自分を雇った二人が、見世物になって出演しているのを目にし、理由を聞いて、驚く話。

  これも、【山名耕作】と、同じようなアイデアです。 短か過ぎて、趣きを欠きます。


【真珠郎】 約108ページ
  1936年(昭和11年)10月から翌年2月まで、「新青年」に連載。

  浅間山近くの湖畔の館に、しばらく投宿する事になった二人の青年学者が、浅間山が噴火した日に、美少年が、館の主を殺す場面を目撃する。 美少年の正体は、館の主によって、生まれた時から蔵に閉じ込められ、血も涙もない殺人鬼に育てられた「真珠郎」という男だった。 その後、主の姪が、青年の一人と結婚し、東京に出て来るが、そこにも真珠郎が現れて、凶行を重ねて行く、という話。

  耽美主義と、草双紙趣味の作風でして、ストーリーだけ書けば、20ページくらいで終わってしまう内容なのですが、そこを、耽美主義的な、細かい描写で、おどろおどろしく膨らませて、長編に引き伸ばしています。 こういうのが好きな人には、読み応えがあると思いますが、私は、どうも・・・。

  一方、草双紙趣味の活劇調も全開でして、真珠郎が暴れるアクション場面はもちろんの事、舞台設定が半端ではなく、洞窟内を流れる川の中洲は、まあいいとしても、浅間山の噴火まで出て来るとなると、もはや、サスペンスと言うより、スペクタクルですな。 更に、首のない死体物という、本格推理も盛り込んであるのですが、そちらは、ちと、テキトーで、オマケ程度です。

  由利先生が登場するものの、ちょっと謎解きの解説をする程度。 本格物として読む場合、弱いのは、謎解きを明確に行わずに、「このくらい書いておけば、分かる読者は、分かるでしょ」といった、放り出し方をしてある点です。 戦前の横溝さんは、ラストで、謎解きを細々解説するのを、鬱陶しいと思っていたのではないかと想像されます。

  この作品、何度か、ドラマ化されています。 1978年、≪横溝正史シリーズ Ⅱ≫の第2話。 2005年、≪名探偵・金田一耕助シリーズ≫の第32話。 どちらも、古谷一行さんが金田一役で登場しますが、原作には、金田一は出て来ません。 1978年の方は、割と原作に近く、2005年の方は、原形を留めていない感じ。 1983年にも、小野寺昭さんが金田一役で、ドラマになっているようですが、私は、未見です。

  最後に、ネタバレ。 これから、この作品を読もうと思っている人は、この先、読まないでください。

  この話の面白さは、「話の中心人物であるはずの真珠郎が、実は、一連の事件が起こる数年前に、死んでいる」という点にあります。 何とも皮肉な話でして、主人公は、死んだ人間の影に怯えていたわけですな。 もっとも、真珠郎以上に凶悪な、真犯人がいるわけですが・・・。