7173 ≪華やかな野獣≫

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≪華やかな野獣≫

角川文庫
角川書店 1976年8月/初版 1976年10月/3版
横溝正史 著

  清水町立図書館にあった本。 「清水町公民館図書室 昭和55年7月2日」のスタンプあり。 1980年ですな。 寄贈本ではなく、横溝正史ブーム中に、図書館で買ったものと思われます。 カバーはなく、波模様になる前の、角川文庫の本体表紙です。 角川の古い「鳳凰マーク」入り。 長編1、中編2の、計3作品を収録しています。


【華やかな野獣】 約136ページ
  1956年(昭和31年)12月に、「面白倶楽部」に掲載されたもの。

  父親の遺産を兄と分け合い、横浜の屋敷をもらった女が、ホテル風に作られている、その屋敷に、夜な夜な、大勢の男女を招いて、「気に入った相手と、部屋にしけこみ自由」というパーティーを催していた。 ある晩、その女主人が殺され、更に、その相手をしていたと思しき男も死体となって発見される。 ボーイに変装して、パーティーを監視していた金田一が、神奈川県警の刑事達と共に、謎を解く話。

  「一晩に、相手を変えて、何人も・・・」という参加者もいるようで、何とも、淫靡なパーティーですなあ。 こういう本が、学校の図書館になかったのも、頷ける。 だけど、横溝さんの作品で、どんなに淫靡な設定が凝らされていても、読んでいて、性的興奮を感じるような事はないです。 そもそも、推理小説なのだから、狙いが違うわけで、当然ですけど。

  トリックの方は、物体的なもので、さして面白くはないです。 謎も、解けてしまうと、意外と言えば意外ですが、読者側には、推理のしようがないような事でして、あまり、面白いとは言えません。 しかし、舞台設定の淫靡さから、何か起こるんじゃないかという期待を感じさせられるせいか、話の雰囲気は良いです。

  金田一が、ホテルのボーイに化けて出て来るのは、ご愛嬌。 この人、1954年の【幽霊男】でも、リゾート・ホテルに、ボーイに化けて潜入していましたが、たぶん、そのお遊び設定が、読者や編集者に、ウケたんでしょうな。 で、再度、ボーイ姿で登場させたのではないかと思います。


【暗闇の中の猫】 約66ページ
  1956年(昭和31)6月に、「オール小説」に掲載されたもの。 元になったのは、1947年発表の【双生児は踊る】。

  かつて、銀行強盗が捕えられた場所に出来たキャバレーに、奪われた金が隠してあると目されている。 捕まった時の怪我が元で、記憶喪失になった男を、刑事達が連れて来たところ、突然、灯りが消えて、その間に、男が射殺されてしまう。 どうやって、暗闇で狙いを定めたのか、男が最後に口にした「暗闇の中の猫が狙っている」という言葉は、どういう意味かなどを、易者に変装していた金田一耕助が解く話。

  金田一と等々力警部が、最初に出会った事件という事になっていますが、だいぶ後になって書かれた作品でして、実際の初顔合わせは、1951年の【悪魔が来りて笛を吹く】辺りなんじゃないでしょうか。 等々力警部だけなら、戦前から、警察の代表みたいな役所で、ずっと、横溝作品に登場しています。

  人物相関が複雑な割に、話の肝は、「暗闇の中で、どうやって、銃の狙いをつけたか」という、そのトリックに尽きるところがあり、推理小説としては、食い足りないです。 トリック自体が、子供騙しの部類でして、金田一が名探偵でなくても、気づいて当たり前。 気づかない警察の面々を、ボンクラにし過ぎています。


【睡れる花嫁】 約50ページ
  1954年(昭和29年)11月、「読切小説集」に掲載されたもの。 元のタイトルは、【妖獣】。

  結核で死んだ妻を死後も愛撫していた罪で服役し、出所して来た男が、自分のアトリエの近くで、警官を刺殺して逃げた。 アトリエの中には、死後に愛撫された別の女の死体があり、同様の事件が、その後、相次いで起こる。 あるバーの関係者が事件に関っていると睨んだ金田一が、捜査を進め、犯人をつきとめる話。

  横溝作品では、アトリエが、よく、舞台になります。 アトリエと死体は、相性がいいらしい。 死体が似合いそうな殺害場所を、まず考えて、そこから、話を膨らませて行けば、面白い作品になる可能性がありますな。 全く死体が似合わない場所で死体が発見されるのも、落差があっていいですが、雰囲気的には、齟齬が出るのを避けられません。

  犯人は意外な人物ですが、これも、読者には情報が知らされないので、推理して分かるという事はないです。 憶測であれば、大体、見当がつきますけど。 金田一が、警察を尻目に、ポンポンと捜査を進めてしまうので、一見、名探偵が大活躍する話のように感じられますが、実際には、警察の方を平均より無能にして、探偵の能力を相対的に持ち上げているだけです。