7166 ≪幽霊座≫

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≪幽霊座≫

角川文庫
角川書店 1973年9月/初版 1976年8月/11版
横溝正史 著

  清水町立図書館にあった本。 「清水町公民館図書室 昭和55年7月2日」のスタンプあり。 1980年ですな。 寄贈本ではなく、横溝正史ブーム中に、図書館で買ったものと思われます。 カバーはなく、波模様になる前の、角川文庫の本体表紙です。 角川の古い「鳳凰マーク」入り。 中編2、短編1の、計3作品を収録しています。


【幽霊座】 約108ページ
  1952年11月・12月に、雑誌「面白倶楽部」に連載されたもの。 

  昭和10年、劇場造りの芝居小屋、「稲妻座」で、専属一座が、歌舞伎、≪鯉つかみ≫を上演中に、主役の花形役者が姿を消し、そのまま失踪する事件が起こる。 戦争を挟んで、17年後、失踪した役者の息子が主役となって、同じ演目がかけられるが、出番直前に、楽屋に差し入れられたチョコに中ってしまう。 急遽、彼の叔父が代役に立ったものの、予期せぬ事態が発生し・・・、という話。

  実際には、もっと、登場人物が多くて、複雑です。 歌舞伎がモチーフになっていて、出だし、その世界に入っていくのに、少し抵抗がありますが、100ページ程度の長さですから、恐れるほど、奥が深くなっているわけではないです。 金田一耕助が、早くから関わって来て、自然に案内役を務めてくれるから、安心して読めます。

  でねー、この話、面白いんですよ。 「失踪者の友人だった役者が、戦時中、慰問に行った満州で、失踪者の姿を見かけた」という話が出てくる辺り、ゾクゾクします。 過去の因縁が、大変、うまく取り入れられていて、効果を上げているわけですな。 17年前と、現在の配分が良いおかげで、取って付けたような因縁話になっていないところが、優れています。

  犯人は、相当には意外な人物で、それが分かってから、ちゃんと、伏線が張ってあった事に気づくという、これまた、教科書的に、よく練られた話なのです。 教科書的と言っても、馬鹿にしているわけではなく、そう感じさせる、折り目正しい作品は、なかなか、書けるものではないです。

  この作品は、古谷一行さん主演で、1997年にドラマ化されているようです。 私は、見ていません。 是非、見てみたいもの。


【鴉】 約62ページ
  1951年7月に、雑誌「オール読み物」に掲載されたもの。

  岡山の山村にある、神社と湯治場を運営している旧家にて。 三年前に失踪した娘婿が、残して行った置き手紙の予告通り、戻って来た形跡があるのだが、なかなか、人々の前に姿を現さない。 磯川警部の計略に嵌まって、事件に巻き込まれた金田一が、関係者の嘘の証言を見抜き、三年前の失踪の謎を解く話。

  旧家の因習ドロドロで、金田一耕助と磯川警部の組み合わせとしては、王道を行く設定ですな。 屋敷の中に、石蔵造りの社殿があり、そこが、失踪事件の舞台装置になります。 トリックはありますが、機械的なものではないです。 そちらの方は、別に目新しさはないのですが、雰囲気だけでも、何となく、嬉しくなってしまいます。

  60ページくらいの作品としては、中身が濃密で、読後に、充足感を覚えます。 この作品は、古谷一行さん主演、≪黒い羽根の呪い≫というタイトルで、ドラマ化されているようです。 なるほど、この話なら、金田一物のドラマとして、うってつけです。 私は、未見ですが。


【トランプ台上の首】 約129ページ
  1956年1月に、雑誌「オール読み物」に掲載されたもの。 この作品は、私が、1995年9月頃に買い集めた本の一冊、春陽文庫の≪横溝正史長編全集18≫にも収録されていて、そちらで、2回、読んでいます。 今回で、3回目になりました。

  隅田川沿いの集合住宅へ、水上から惣菜類を売りに来ていた男が、お得意の女性客が住んでいる部屋を覗き込んだところ、その女の生首がテーブルの上に置かれているのを発見する。 首から下の体が見つからず、犯人が何の為に首だけ残して行ったのか分からずに、捜査陣が混乱する中、金田一耕助が突破口を開く話。

  被害者の身元を分からなくする為に、犯人が、首だけ持ち去るというのは、よくあるパターンですが、この作品のアイデアは、その逆のパターンになります。 「首なし死体物を、逆にして、推理小説が成立するか?」という命題に対する、横溝正史さんの回答になっているわけですな。 そういう点で、特別な作品という事になります。

  アイデア勝負の話で、しかも、確実に、成功しています。 長さも、ちょうどよくて、余計な描写もなければ、説明が不足するような事もないです。 死んだ女の過去について、もう少し、描き込む余地があるような気がしますが、それをやったら、首なし死体物の逆転という狙いが、焦点ボケを起こしてしまうかも知れません。

  この作品は、古谷一行さん主演、 古手川祐子さんゲストで、2000年に、同名ドラマ化されており、私も見た事があります。 ただし、ダブル原作で、≪黒猫亭事件≫も絡めてあるので、この作品の要素は、話の中心ではなかったと思います。