7159 ≪ペルシャ猫を抱く女≫

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≪ペルシャ猫を抱く女≫

角川文庫
角川書店 1977年11月10日/初版
横溝正史 著

  清水町立図書館にあった本。 「清水町公民館図書室 昭和55年7月2日」のスタンプあり。 昭和55年は、1980年。 カバーはなく、波模様になる前の、角川文庫の本体表紙です。 角川の古い「鳳凰マーク」入り。 中編1、短編8の、計9作を収録しています。


【ペルシャ猫を抱く女】 約26ページ
  1946年(昭和21年)10月、「キング」に掲載されたもの。 1947年(昭和32年)12月に発表された金田一物の短編、【○○扇の女】の元になった話。 その後、更に書き改められて、長編にもなっています。

  ある村で、旧家の娘が、寺の若い僧侶から、自分の先祖に毒殺魔の女がいたと知らされる。 自分にそっくりの肖像画まで見せられて、呪われた血統に恐れ戦くが、実は、それは、娘に懸想した僧侶の陰謀で・・・、という話。

  基本アイデアは、【○○扇の女】と全く同じです。 そして、元の話だけあって、こちらの方が、纏まりがいいです。 長編化した方は、尾鰭をくっつけて、引き伸ばしたわけですが、このオリジナルと比べると、尾鰭が、尾鰭として、はっきり分かってしまいます。 ただ、どちらが面白いかと言うと、長編の【○○扇の女】の方が、尾鰭部分の描きこみに迫力がある分、一段、上です。


【消すな蝋燭】 約30ページ
  1947年(昭和22年)10月11日、「旬間ニュース」に掲載されたもの。 タイトル中の「蝋」は、本来、旧字。

  ある村で、祈祷師の老婆が殺される。 自分の想い人の男が犯人ではないかと心配した若い娘が、警察が来る前に、現場に入り、擬装工作を行なうが、そのせいで、逆に、男の容疑が深くなってしまう。 知恵者の僧侶が、謎を解き、真犯人をつきとめる話。

  赤と緑の区別がつかない人物が犯人というパターン。 トリックも使われていますが、不発で終わります。 関係者が死んでしまった何年も後に、娘の叔母が、昔話として語る形式に趣きがあり、トリック・謎の部分は、オマケのような感じですが、そこそこ融合していて、水と油というほどではないです。

  シンプルな謎・トリックを用いつつ、描き込みで完成度を高めた推理物短編としては、傑作と言ってもいいんじゃないでしょうか。


【詰将棋】 約26ページ
  1946年(昭和21年)11月、「新日本」に掲載されたもの。

  山村に疎開していた高名な法学者が、自分に詰将棋を教えてくれた弟子に、詰将棋の難問を出しては、解かれてしまうという戦いを続けていた。 ある時、弟子の死体が川で発見され、他の殺人事件で手配されていた男が疑われるが、実は・・・、という話。

  「詰将棋に執着し過ぎて、人生を誤った」というのがテーマで、謎はあるものの、推理小説としては、本道とは言えません。 枠を借りただけですな。


【双生児は踊る】 約72ページ
  1947年(昭和22年)3・4・5月、「漫画と読物」に分載されたもの。 これは、後に、金田一物に書き改められて、【暗闇の中の猫】になっています。 そちらは、64ページで、むしろ、オリジナルの方が長いです。

  かつて、銀行強盗が捕えられた場所に出来たキャバレーに、奪われた金が隠してあると目されている。 捕まった時の怪我が元で、記憶喪失になった男を、刑事達が連れて来たところ、突然、灯りが消えて、その間に、男が射殺されてしまう。 どうやって、暗闇で狙いを定めたのか、男が最後に口にした「暗闇の中の猫が狙っている」という言葉は、どういう意味かなどを、双子のタップ・ダンサー、夏彦と冬彦が解く話。

  基本アイデアは同じですが、【暗闇の中の猫】よりも複雑で、ちと、分かり難いところもあります。 話は入り組んでいる癖に、トリック・謎が、子供騙しでして、大して面白くはないです。 襲撃を防ぐのに、上着を盾にする人がいますかね? スペインの闘牛じゃあるまいし。

  夏彦・冬彦の素人探偵コンビは、【双生児は囁く】でも、出て来ました。 他にも、登場作品があるんですかね? この二人も、戦後作品の探偵役で、もしかしたら、金田一を、僻地担当、夏彦・冬彦を、都会担当と、使い分けるつもりだったのかも知れませんが、夏彦・冬彦は、スマートなだけで、誠実さが感じられないので、使い勝手が悪く、すぐに、お役御免になってしまったのかも知れません。


【薔薇より薊へ】 約24ページ
  1947年(昭和22年)1月、雑誌「漫画と読物」に掲載されたもの。

  映画監督の後妻に入った元女優が、7年後、夫の本の間から、「薔薇から薊へ」と書かれた手紙を発見する。 結婚前に自分と夫の間で使っていた秘密の名前だったが、よく見ると、自分が書いた物ではなかった。 夫が浮気相手と、自分を殺す計画を立てていると知った妻は、刺し違える覚悟で、罠をしかけるが、実は・・・、という話。

  【孔雀夫人】に似た話ですが、成りすましは使われておらず、もっと、シンプルです。 この、妻の告発に、嘘が含まれているせいで、推理しながら読むのは不可能です。 話の筋を追って、「ああ、そういう事なのか」と思う事だけしかできません。 いわゆる、アンフェアに属する書き方ですな。 短いですし、目くじら立てるほど、内容の濃い作品ではないですけど。


【百面相芸人】 約22ページ
  1947年(昭和22年)1月、「りべらる」に掲載されたもの。 この作品の登場人物は、約一年後に、「月間読売」に連載された、【びっくり箱殺人事件】にも、顔を出します。

  顔面模写の技能をもった芸人が、妻に行動を監視されている男に頼まれて、男が浮気を働いている間、本人に成りすまして、アリバイ工作をする仕事を引き受ける。 ところが、男がやったのは、浮気ではなく、妻の殺害だったと分かり・・・、という話。

  ショートショート的な趣きの作品。 うまく纏まっているような、そうでもないような・・・。 依頼人を尾行していた探偵と、顔面模写芸人が同一人物だった、というのを、後から書くのは、意外な結末と言うよりは、ズルなのでは?


【泣虫小僧】 約38ページ
  1947年(昭和22年)10月、「サンデー毎日特別号」に掲載されたもの。

  浮浪児の少年が、トマトや南瓜を盗みに入った先で、その家に住む女が殺されているのを発見する。 財布を盗んで逃げたが、その財布は、その女に恨みがある女学生の物で、二人とも、警察に連れて行かれる。 ところが、実は、犯人は別にいて・・・、という話。

  犯罪がモチーフですが、推理物と言うには、中身が薄過ぎ。 むしろ、人情物として読んだ方が、素直に楽しめます。 横溝さんの世代なら、戦後の浮浪児を、実際に見た事があったと思うのですが、些か、純朴過ぎるキャラ設定と言うべきか。 リアリティーよりも、彼らへの哀れみを前面に出したかったのかも知れません。


【建築家の死】 約8ページ
  1947年(昭和22年)4月、「真珠」に掲載されたもの。

  ある建築家が、自分の腕の宣伝目的で、自ら建てた、カラクリ屋敷のような家の中で、死体で発見される話。

  ページ数を見ても分かると思いますが、小説というより、小話です。 しかも、全然、笑えません。 それ以前に、話になっていません。 「こんな枚数で、推理物が書けるか」と、不貞腐れて書いたのでは?


【生ける人形】 約17ページ
  1949年(昭和24年)8月、雑誌「苦楽」に掲載されたもの。

  奇態を売りにしてサーカスに出ている男が、あるキャバレーで、映画女優に刺殺され、その女優も、自分の心臓を刺して死んだ。 女優が生前に、ある人物に告白していたところでは、最近、何者かに、かどわかされ、その女優と、刺殺された男にそっくりな人物が出てくる、卑猥な映画を見せられたという。 告白された人物が、女優の犯行動機を推し量る話。

  話になっていません。 思いついた場面を、そのまま文章に書いただけ、という感じです。 もしかしたら、作者が、夢に見た内容なのでは?