8237 ≪三体Ⅱ 黒暗森林 上・下≫

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≪三体Ⅱ 黒暗森林 上・下≫

早川書房 上・下共 2020年6月25日/初版
劉慈欣 著
大森望 立原透耶 上原かおり 泊功 訳

  ≪三体≫の第二部。 ≪三体≫と同時に、三島図書館で借りて来ました。 約一年新しいだけあって、≪三体≫以上に、綺麗な本でした。 ほんの数人くらいしか、読まれた形跡がありません。 購入されてから、一年以上経っているにも拘らず、この状態という事は、話題になったベスト・セラーと言っても、「SF長編としては、」という但し書きが付くんじゃないでしょうか。

  2008年5月に、中国の重慶出版社から、「中国SF基石叢書」の一冊として出版されたものだそうです。 つまり、≪三体≫と違って、雑誌連載ではなかったわけだ。 単行本、一段組み、上下巻で、656ページ。 確かに、≪三体≫の、1.5倍ですな。


  三体から送り込まれた、操作できる陽子、智子(ちし)のせいで、基礎科学の進歩が止まってしまった地球人の文明。 三体人に気取られずに、三体艦隊を迎え撃つ戦略を練る為に、四人の「面壁者」が、人類の中から選ばれ、強大な権限が与えられる。 内三人は、それぞれ、全く異なる方法を案出するが、三体人は意にも介さない。 唯一、三体人から、「殺害すべし」と見做された青年学者は、理想的な場所で、理想的な異性と暮らす事を望み、それは、面壁者の特権で実現されたが、やがて・・・、という話。

  ≪三体≫より、1.5倍長いのに、梗概が短くなったのは、すでに、基本的な世界設定の説明が済んでいるから、という事もありますが、これ以上書くと、ネタバレになってしまうからです。 第二部まで到達した読者は、当然、最後まで読むと思うので、ネタバレさせたら、私の命が危うい。 推理小説でなくても、この作品の後半は、先に知ってしまっていたら、その無類の面白さが損なわれてしまいます。

  三体人は、コミュニケーションの仕方が、地球人と違っていて、頭で思った事は、全て、周囲に伝わってしまうタイプでして、隠し事ができない。 一方、地球人は、音声や文字でやりとりするので、隠し事ができる。 それを利用して、個人の頭の中だけで戦略を練る、「面壁者」を選び出したというところから、話が始まります。

  次は、なんで、三体人から命を狙われているのか、本人も分からない青年が、理想の恋人と理想郷で暮らすようになる顛末。 ここは、恋愛小説のような雰囲気ですが、よくある、青臭・アホ臭い恋愛小説より、数段、ピュア度が高いです。 外見も雰囲気も、青年が夢見ていた通りの女性を、元警官で、人捜しも仕事の内だった警護責任者、大史が連れてくるのですが、「そういう事ができるなら、私にも捜してくれ」と思う読者が多いでしょうな。 しかし、青年が、面壁者特権を持っていたから、可能だったのであって、一般人では、資格外も甚だしい。

  次は、人工冬眠で、約200年飛んで、青年と、大史は、未来で目覚めます。 その間に、応用技術の大発展があり、地球の宇宙艦隊は、質的にも量的にも、三体艦隊と渡り合えるレベルになっています。 一応、戦争物なのだから、そうでなくては、いけませんな。 どちらかが、一方的に強いなんて、面白くないですから。 ただし、質の方は、あくまで、スペック上なのですが。

  その時代で描かれる未来社会は、他のSF作家が書くのと同様に、月並みで、陳腐なものです。 こんな未来なら、特に住みたいとも思わない、といった体のもの。 これは、どの作家でも、同じであるところを見ると、現在、存在しない技術や習慣を、社会全般に渡って想像するのは、困難なんでしょうな。 もしくは、他の作家が描いた未来の様子を、パロディーにしているのかも知れません。

  で、クライマックスは、地球の宇宙艦隊が、三体艦隊から先行して送り込まれてきた、「水滴」という探査機を捕獲する件りです。 これは、凄いわ。 というか、凄まじいわ。 私も、結構、戦闘場面の出て来る小説を読んで来ましたが、これは、断トツに、ド派手で、凄惨だわ。 あくまで、捕獲作戦に過ぎないんですがね。 ファースト・コンタクトなのに、それどころではなくなってしまうんですな。 これ以上、書きません。 作品を読んで下さい。

  捕獲作戦に先立ち、逃亡主義者の軍人が、恒星間航行ができる戦艦を、乗員ごと盗んで、逃亡するのですが、そちらの顛末も面白いです。 「黒暗森林」というのは、「宇宙は、真っ暗な森の中を、猟師が獲物を求めて、うろついているようなもの」、すなわち、「異星文明の間には、相手を滅亡させる以外に、対応の方法がない」という意味合いですが、この逃亡艦隊の中では、その縮図のような事件が起こります。

  そして、ラストですが、これこそ、一文字も書けません。 最高機密レベルの、ネタバレ厳禁が要求される結末ですな。 それにしても、ドンデン返しが、何度も繰り返される作品である事よ。 ≪三体≫と違って、≪三体Ⅱ≫では、一応、話が終わります。 第三部は、どう展開するのか、この時点では、想像もつきません。

  梗概を細かく書き直しただけで、感想になっていないような気もしますが、このくらいにしておきます。 感想なんか読むより、作品を読んだ方がいいです。 もちろん、≪三体≫から、通しで。 それでないと、ストーリーが分かりませんから。 科学・技術用語が苦手な人でも、≪三体≫を、大体のストーリーを頭に入れるだけでも、突破して来れば、≪三体Ⅱ≫は、ずっと、読み易くなります。

  いやあ、この小説、中国で出版された後、すぐに、日本語訳が出ていれば、小松左京さん(2011年没)に、読んでもらいたかったなあ。 スタニスワフ・レムさん(2006年没)は、間に合わなかったけれど。 お二方とも、おそらく、どんなアメリカSF映画よりも、強烈な興奮を覚えたと思います。