7509 ≪江戸川乱歩全集⑥ 押絵と旅する男≫

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≪江戸川乱歩全集⑥ 押絵と旅する男≫

江戸川乱歩全集 第六巻
講談社 1979年4月20日/初版
江戸川乱歩 著

  沼津市立図書館にあった本。 ハード・カバー全集の一冊。 箱やカバーがあったものと思いますが、外されて、ビニール・コートされています。 第五巻に続き、第六巻を借りて来ました。 二段組みです。 短編1、中編2、長編1の、4作収録。


【押絵と旅する男】 約18ページ
  1929年(昭和4年)6月、雑誌「新青年」に掲載されたもの。

  魚津へ蜃気楼を見に行った帰りの列車内で、押絵を窓枠に立てかけている男と会話をする事になり、押絵の世界に閉じ込められた人間の、不思議な顛末を聞く事になる話。

  ファンタジーという言葉を使うと、ちと、ズレてしまいますが、幻想小説ですな。 オチがあるわけでもなく、物語としては、別に、面白くはないです。 「こういうのが好きな人なら、評価するかも知れぬ」と思う程度。


【盲獣】 約78ページ
  1931年(昭和6年)2月から、3月まで、「朝日」に連載されたもの。 「朝日」は、たぶん、雑誌だと思います。

  盲人の按摩師が、触感的に美しい女性をたらしこんで、触感的快楽の世界に引き込み、飽きては殺し、バラバラにして、世間に曝すという犯罪を繰り返していた。 やがて、彼は、「触感芸術」を提唱し、批評家から高い評価を得るが・・・、という話。

  以下、ネタバレ、あり。

  江戸川さん十八番の、変体趣味が、全開。 後年になって、自薦全集を作る事になり、読み返したところ、「大変な変態趣味だ!」と自身でも驚いたというから、筋金入りです。 しかし、別に、官能的なところがあるわけではなく、やはり、犯罪小説の一類です。

  推理小説になっていないのは、事件を解決する人物が出て来ないから。 犯人が、やりたい放題やって、最後は、触感芸術を創始しておしまいという、ストーリー的には、楽しみようがない展開になっています。 解説にある通り、触感芸術というアイデアだけ、面白いです。


【何者】 約40ページ
  1929年(昭和4年)11月から、12月まで、新聞「時事新報 夕刊」に、30回前後、連載されたもの。 

  ある軍人の屋敷に、泥棒が入り、その家の息子の足を、ピストルで撃って逃げた。 ところが、庭の先にある井戸まで往復した足跡はあるものの、そこから先の足取りが全く掴めない。 金製品だけ盗まれていた事から、近所に住む金製品収集狂が疑われる。 撃たれた本人が推理を働かせ、他に犯人がいる事を証明するが、実は・・・、という話。

  コチコチというか、ガリガリというか、トリックと謎解きだけで出来た、本格物としか言いようがない本格物です。 2段組みとはいえ、このページ数ですから、小説的肉付けは、ほとんどなくて、推理遊びみたいな趣きになっています。 横溝作品に、【かめれおん】というのがありますが、それと同類。 だけど、私は、こういうのは、結構、好きです。

  真犯人の動機が、最初、隠蔽されていたのが、後で分かると、「ああ、なるほど」と思います。 息子が撃たれた箇所が、なぜ、足だったのかにも、理由があり、よく考えられていると思います。 明智小五郎が出てくるのは、ちと、詰め込みすぎか。 江戸川さんは、明智小五郎を、大変、便利に使っていたようで、こんな短い話でも、強引に出していた模様。


【黄金仮面】 約141ページ
  1930年(昭和5年)9月から、翌年10月まで、雑誌「キング」に掲載されたもの。

  黄金の仮面をつけた怪盗が、有名な古美術品ばかりを狙い、日本各地に出没していた。 明智小五郎や、警視庁の波越警部が、黄金仮面を相手に、丁々発止の知恵比べや、追いかけっこを繰り広げた挙句、相手の正体が明らかになり、あっと驚く話。

  以下、ネタバレ、あり。

  黄金仮面の正体は、中ほどで明らかになりますが、マジで、あっと驚きます。 驚くと同時に、「こんな人、勝手に登場させてしまって、著作権的に、いいのかいな?」と、心配するより先に、笑ってしまいます。 まあ、バラしてしまうと、アルセーヌ・ルパンなんですがね。

  モーリス・ルブランさんに許可を得て書いたわけでないのは疑いないところで、戦前の日本では、海外作品のパクリなんて、珍しくもなかったんですな。 「どうせ、日本の作品なんて、外国で読む人はいない」と高を括っていて、しかも、それが、事実、実情だったわけだ。 もっとも、ルブラン作品にも、【ルパン対ホームズ】という、たぶん、無許可で書いたであろうと思われるものがあります。

  後半は、明智小五郎とルパンが、騙し騙され合い、出し抜き出し抜かれ合うわけですが、アクション活劇でして、推理小説が目当てで読むと、全然、面白くありません。 ただただ、連載用に、毎回、見せ場を作って、次回に送っているだけ。 どう考えても、子供騙しですなあ。 これが、大人向けの国民的雑誌に連載されていたというのだから、戦前日本の読書人のレベルが、窺い知れようというもの。

  ちなみに、ルパンにたらし込まれてしまう日本女性で、「大鳥不二子」という人物が出て来ます。 もしかしたら、≪ルパン三世≫の峰不二子は、ここから取ったんじゃないでしょうか?