7495 ≪江戸川乱歩全集④ 孤島の鬼≫

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≪江戸川乱歩全集④ 孤島の鬼≫

江戸川乱歩全集 第四巻
講談社 1978年11月20日/初版
江戸川乱歩 著

  沼津市立図書館にあった本。 ハード・カバー全集の一冊。 箱やカバーがあったものと思いますが、外されて、ビニール・コートされています。 なぜ、第四巻から借りて来たかというと、一二三巻がなかったからという事もありますが、【孤島の鬼】が名作だという話を何かで読んだ事があったから。 二段組です。


【孤島の鬼】 約168ページ
  1929年(昭和4年)1月から、翌年2月まで、雑誌「朝日」に連載されたもの。 

  何者かに婚約者を殺されてしまった美青年が、婚約者が遺した系図や、彼女が幼い頃に見た景色の記憶を手掛かりに、素人探偵の友人と共に、密室殺人の謎を解こうとするが、その友人までが、衆人環視の中で殺されてしまう。 青年に同性愛的な感情を抱いている、もう一人の友人が、探偵役を引き継ぐが、婚約者が幼い頃に見た景色というのが、その友人の実家がある孤島から見える景色とそっくりで・・・、という話。

  以下、ネタバレ、あり。

  密室殺人、衆人環視殺人の辺りは、本格トリック。 しかし、江戸川乱歩さんは、物理的な本格トリックを馬鹿にしていたところがあり、それが文章に出てしまうので、読者側も、ゾクゾクしきれないものがあります。 壺を利用するアイデアは面白いですが、そんな頼みを引き受けるほど馬鹿な子供が、殺人などという、強固な意志を必要とする任務を遂行できるのかという、疑念が湧いてしまうのです。

  中ほどで出て来る、シャム双生児の告白文は、【アルジャーノンに花束を】的な面白さがありますが、モチーフとしての、シャム双生児のアイデアは、今から見ると、白けるだけです。 横溝作品にも、さんざん出て来ましたから。 しかし、当時は、読者をゾクゾクさせるのに、充分なインパクトを持っていたのでしょう。

  で、最終的な舞台である、孤島ですが、どうにも、良くありません。 前半を読んでいた時には、孤島というのは、犯人の精神的な孤独を意味しているのではないかと思っていたのですが、そうではなく、本当に、孤島に行くんですな。 シャム双生児が閉じ込められた蔵とか、洞窟とか、これまた、横溝作品で見慣れたものばかり。 もっとも、先に、その種の道具立てを使ったのは、江戸川さんだと思いますけど。

  「発表当時は、」という限定をつけるのなら、傑作と認めるのに吝かではないです。 そうでない場合、やはり、江戸川さんらしい、子供騙し的な、「お話」としか言いようがありません。 作者本人も、子供騙しになっている事が分かっていながら、戦前日本の怪奇小説界のリーダーとして、立場的に書かざるを得ずに書いていたというところが、痛々しい。

  特に問題なのは、シャム双生児を、人為的に作ったという設定になっている点でして、馬鹿も休み休み・・・、そんな簡単に、くっつけられるわけがないではありませんか。 拒絶反応とか、知らなかったんですかね? 科学を無視していたのでは、近代以後の小説は成り立たないと思うのですがねえ。



【猟奇の果】 約124ページ
  1930年(昭和5年)1月から、12月まで、「文芸倶楽部」に連載されたもの。

  金に困っていない男が、閑に飽かせて、奇妙な体験ばかりを漁っていた。 ある時、友人の科学雑誌編集長に、顔も体つきも、そっくり瓜二つな人物を目撃し、最初は面白がっていたものの、その後、その人物が、男の妻と不倫を働いている疑いが持ち上がって、次第に翻弄されて行く。 一方、総理大臣の娘や、総理大臣本人が、外見そっくりの別人に成り代わられてしまう事件が発生し、明智小五郎が出張るものの・・・、という話。

  以下、ネタバレ、あり。

  前半から、ダラダラという感じ。 顔形がそっくりな二人の人間というのは、確かに奇妙な事なんですが、劇的なエピソードを用意せずに、描写を細かくするだけで、書き綴ろうとしているので、緊張感がない展開が続いて、読む気がなくなって来ます。 それもそのはず、解説によると、江戸川さん自身が、どんなストーリー展開にするか見失っていたらしいのです。 道理で、こんな文章になるわけだ。

  途中で、完全に行き詰ってしまい、編集者からの要望で、明智小五郎を出し、「国家乗っ取りの陰謀」という方向に、強引に持って行ってしまうのですが、そちらも、何のアイデアもなしに書いているので、全く面白くありません。 大体、最初、主人公だった人物は、どこから、友人の一味になったのか、何も書いていないから、読者側は、さっぱり分かりません。

  最終的に、そっくりというのは、整形手術で作られたものと分かるのですが、それは別に、アイデアというほどのアイデアではないのでは? どうも、医学知識を、生半可に齧って、テキトーに書き飛ばしたようなところがあり、感心しません。