7488 ≪一寸法師≫

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≪一寸法師≫

創作探偵小説集第七巻
春陽堂 1927年3月20日/初版
春陽堂書店 1993年11月30日/復刻初版
江戸川乱歩 著

  沼津市立図書館にあった本。 ハード・カバー全集の一冊で、復刻版である事を記した奥付が、1枚追加されている外は、昭和2年発行の本と、全く同じという、完璧に近い復刻版です。 文章は、旧仮名遣いで、活字もルビも、昔のまま。 しかし、慣れれば、さほど抵抗なく読めます。


【パノラマ島奇談】 約150ページ
  1926年(大正15年)10月から、途中休載を含み、1927年(昭和2年)4月まで、「新青年」に連載されたもの。 本に解説が付いていないので、以上、ネット情報。

  売れない小説家が、自分そっくりの資産家が死亡したのを利用して、土葬の墓から生き返ったという設定で、その人物に成りすまし、資産を売り払って、離れ小島に、かねてから夢想していた、理想郷を建設する。 しかし、資産家の妻だけは、騙しきれず・・・、という話。

  以下、ネタバレ、あり。 しかし、ネタバレしても、問題ないような内容です。

  「パノラマ」というのは、昔、見世物小屋にあった、景色がいろいろに変わる仕掛けの事らしいですが、仕組みは大体分かるものの、規模など、実際の雰囲気は、どんなものだったのか、想像するしかありません。 それを、離れ小島に、本物の景色として作ったという話。 錯覚を利用して、小さな島を広大な土地に見せかけているという説明が、くどいくらい、繰り返されています。

  成りすましそのものも、犯罪ですが、正体がバレないように、妻を殺してしまおうというのが、メインの事件。 しかし、この作品の読ませ所は、事件ではなく、島に作られた理想郷の細かな描写です。 理想郷と言っても、社会丸ごとのユートピアではなく、個人の妄想で捏ね上げた、見せかけだけのファンタジックな世界なんですが、よくも、想像だけで、ここまで考えたものと、感服するほど、緻密です。

  しかし、パノラマ島の描写が細かければ細かいほど、事件の方が、薄っぺらに感じられて、物語全体のバランスが悪くなります。 たとえば、純然たるファンタジー作品に、妻殺しの事件が出て来たら、なんか、そこだけ、妙にリアルで、変でしょ? 



【一寸法師】 約196ページ
  1926年(大正15年)12月8日から、途中休載を含み、1927年(昭和2年)2月20日まで、「東京朝日新聞」に連載されたもの。 「大阪朝日新聞」でも、当初、同時連載されていたけれど、その後、ズレて行ったらしいです。 以上、ネット情報。

  一寸法師と呼ばれる、顔と胴は大人なのに、手足が短い男が、実業家の娘の死体をバラバラにし、腕をデパートのマネキンに差し込んだり、実業家宅に送りつけて来たりと、奇怪な犯行を繰り返す。 実業家の後妻に岡惚れしている青年が、友人の明智小五郎に捜査を依頼し、明智の手腕で、一寸法師を追い詰めるが、実は犯人は・・・、という話。

  以下、ネタバレ、あり。

  私は、中学時代に、この作品のあらすじを、友人から聞いたと思っていたのですが、それは、短編、【芋虫】の間違いでした。 こちらは、トリックや謎、活劇場面を含む、草双紙的な作品でした。 トリックはあるにはありますが、ささやかなもので、本格物とは、とても言えません。

  横溝作品、【蝶々殺人事件】のメイキング譚で、「ピアノの中に死体を隠すなんて、無理」という音楽関係者のコメントが出て来ますが、たぶん、この作品を念頭に置いて言ったのだと思います。 つまり、江戸川さんは、ピアノの構造を、よく知らなかったわけだ。 まあ、私も知りませんけど。

  文章のタッチが秀逸で、恐らく、発表当時は、翻訳文体と言われたと思いますが、醒めた三人称で、淡々と語られ、そのせいか、ただ読んでいるだけで、ゾクゾクします。 しかし、一寸法師の特徴と、事件の中身に、必然的な関連が薄く、バラバラ感が強くて、お世辞にも、纏まりのいい話とは言えません。

  また、終わり方が、生ぬるくて、一寸法師を除き、「みんな、根はいい人」にしてしまったのは、最悪。 せっかく、ドライに語り進めてきたのに、最後で、これはないでしょう。 江戸川さん本人は、この作品に、大いに不満があったらしいですが、そりゃそうだろうと頷けます。 どうも、江戸川作品は、魅力的な部分と、しょーもない部分が、同居している感がありますな。

  言うまでもなく、障碍者を差別している作品なので、「昔だから、許された」という事を、前提にして読む作品です。