7460 ≪蝶々殺人事件≫

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≪蝶々殺人事件≫

角川文庫
角川書店 1973年8月10日/初版 1976年8月10日/11版
横溝正史 著

  2019年5月に、ヤフオクで、角川文庫の横溝作品を、18冊セットで買った内の一冊。 その頃、ヤフオクでは、この≪蝶々殺人事件≫が、単品では、安く出品されていなくて、この本欲しさに、セットを買ったようなところもありました。 その後、安い単品が出て来て、別に、この本の価値が高騰しているわけではなかった事が分かりました。


【蝶々殺人事件】 約272ページ
  1946年(昭和21年)5月から、翌年4月まで、「ロック」に連載されたもの。 この作品は、3年前に、一度、読んでいるので、梗概は、そちらから、移植します。

  新聞記者、三津木俊助は、戦後、ある出版社から、探偵小説を書くように求められ、戦時中に疎開したまま、国立に住んでいる由利麟太郎を訪ねる。 戦前、由利が解決した事件を小説にする許可を得て、三津木が選んだのが、オペラ歌手・原さくらが、「蝶々夫人」の公演の為に、自らが率いる歌劇団ごと乗り込んだはずの大阪で、コントラバス・ケースに詰め込まれた死体となって発見された事件だった。 由利を中心に、警察の捜査陣、新聞記者らが協力し、殺害現場を晦ますトリックや、原さくらと劇団関係者の因縁を明らかにして行く話。

  前回読んだ時の感想が、このブログの過去記事(2016年5月11日)にあるので、細かい事は端折ります。 ≪本陣殺人事件≫と並行して書かれた、横溝さんの戦後第2作で、由利・三津木コンビ物としては、評価が高いのですが、≪本陣≫の方との兼ね合いで、金田一を使えなかったから、戦前の探偵キャラに再登板してもらったというだけの事で、本格物ですから、金田一で書いた方が、しっくり来るような内容です。

  三津木俊介は、本来、アクション担当なのですが、この作品では、今更ながらに、ワトソン役を振られて、物語の記録者という形になっています。 「新聞記者だから、小説くらい書けるだろう」という、かなりの無茶振り。 戦前作品の三津木を知っていれば、彼が小説を書くなど、想像もつきますまい。

  一種のアンフェア物で、「こういう事をするくらいだから、この人間が犯人であるはずがない」と、読者に思わせておいて、実は、そやつが犯人というパターン。 横溝さんは、≪夜歩く≫でも、アンフェア物を書いていますが、こちらでは、もっと捻って、アンフェアと指摘されるのを回避しようと、ひと工夫、施してあります。

  そのせいで、複雑な話になっています。 それでなくても、殺人事件が三つも起きて、それぞれに、トリックや謎があるという複雑さなのに、これ以上、捻る必要があったのかどうか、首を傾げてしまいます。 評価が高いというのは、理解できる一方、面白いかと問われると、どんなものかと思ってしまうのです。


【蜘蛛と百合】 約52ページ
  1933年(昭和8年)7・8月に、「モダン日本」に掲載されたもの。

  三津木俊介の友人と、友人の愛人が、謎めいた未亡人風の女に関わった事で殺されてしまう。 女には、蜘蛛のような奇怪な男と婚約していた過去があった。 三津木俊介は、由利先生の忠告も聞かずに、その女に近づくが、彼も魔性の魅力の虜になってしまう、という話。

  草双紙趣味ですが、活劇ではなく、サイコ・サスペンス風の話です。 硬派の三津木俊助が、手もなく籠絡されてしまうところが面白いですが、それ以外に見るべきところはないです。 最初に殺される二人の描き込みが、殺されキャラにしては、細か過ぎ。 特に、友人の愛人になる女性は、喋り方が、妙に今風で、昭和8年に書かれた作品とは思えないくらい。 でも、すぐに、消えてしまうのです。 何だか、勿体ないキャラですな。

  無理やり、蜘蛛に絡めようとしているのですが、成功していません。 懐中電灯のレンズの中に蜘蛛を入れても、蜘蛛の影を映し出せないと思うのですがねえ。 もっとも、実験してまで確かめようという気になりませんけど。 「蜘蛛みたいな男」に至っては、どういう人なのか、想像力が追いつきません。


【薔薇と鬱金香】 約60ページ
  1933年(昭和8年)8月、「週刊朝日」に掲載されたもの。 

  5年前、愛人に夫を殺された夫人が、再婚した。 新しい夫と、芝居を見に出かけた劇場で、火事が起こり、助けてくれた人物が、かつての愛人、つまり、前夫を殺して、刑務所で死亡したはずの男に良く似ていた。 男の家に招かれた夫妻は、夫人の前夫を殺したのが誰かを告げられて・・・、という話。

  短いのに、いろいろと盛り込んであって、梗概では、内容をうまく伝えられません。 この上、更に、由利・三津木コンビまで出てくるといったら、どれだけ、ややこしいか、分かっていただけるでしょうか。 二回読んで、初めて、話が理解できた次第。 漫然と読んでいると、メイン・ストーリーを見失ってしまいます。

  謎がありますが、一つは、死んだはずの男が、なぜ生きていたのかというもので、答えは、仮死状態になる薬を飲んだというもの。 具体的に、何という薬物なのかまでは触れておらず、いかにも、戦前作品的な、御都合主義です。 もう一つは、歌時計(オルゴール)が途中で止まった理由で、これは、【蝋美人】と同じアイデアです。 こちらの方が、ずっと早いですけど。

  全体的に、草双紙趣味。 最後の章だけ、耽美主義。 一応、謎も入っているから、推理小説の要素も備えているわけで、短い割には、豪勢です。 だけど、面白いかと言われると、全てが、中途半端な感じがしますねえ。 発表当時の読者は、そうは感じなかったかもしれませんが。


  角川文庫旧版で、初めて、由利・三津木コンビ物が登場したのが、この本なので、表題作の【蝶々殺人事件】以外も、由利・三津木コンビ物から選ぼうという事になったのだと思いますが、この2作を選んだのは、まずまず、妥当な線といったところ。 活劇場面が少なく、割と、真面目に読めるからです。 他のなんてもう・・・、いや、今までにも、いくらも感想を書いて来たので、繰り返しませんが・・・。