7446 ≪消すな蝋燭≫

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≪消すな蝋燭≫

横溝正史探偵小説コレクション⑤
出版芸術社 2012年7月25日/初版
横溝正史 著

  沼津市立図書館で借りて来た本。 「横溝正史探偵小説コレクション」シリーズの、2012年になって、作者の生誕110周年を期に増刊された、2冊の内の1冊。 長編1と、短編7、計8作を収録。 2段組みです。 疎開先の岡山で、戦後、執筆再開した時の短編の他、いずれも、岡山が舞台になっている作品を集めたもの。

  内、【消すな蝋燭】、【泣虫小僧】は、≪ペルシャ猫を抱く女≫の時に、【鴉】は、≪幽霊座≫の時に、すでに感想を書いているので、そちらを、参照の事。 ちなみに、【神楽太夫】、【靨】、【蝋の首】は、角川文庫旧版では、≪刺青された男≫に収録されています。 以下、ネタバレ、あり。


【神楽太夫】 約15ページ
  1946年(昭和21年)2月、「週刊河北」に掲載されたもの。 発表順で言えば、戦後第一作に当たる作品。 角川文庫旧版では、≪刺青された男≫に収録。

  村々の祭りを巡回する神楽太夫一行の内、恋敵の関係にあった若い二人が行方不明になり、一人の遺体が、顔が分からない状態で発見される。 当初、服装から、どちらなのかが判断されていたのを、若い警部補が疑念を抱き、関係していた女を呼んで確認させたところ、もう一人の方だった事が分かるが・・・、という話。

  いわゆる、「顔のない死体物」ですが、最後に、もう一回、転回があり、そこが、読ませ所になっています。 事件の真相の方は、推理の余地なく、犯人の自白を伝える形で語られます。 推理物でなければ、ショートショートでも通りそうな、気が利いた話です。


【靨】 約29ページ
  1946年(昭和21年)、「新青年」の、3月4月合併号に掲載されたもの。 「靨」は、「えくぼ」と読みます。

  戦後復員して来た男が、かつて逗留した事がある湯治場を訪ねて来て、10年前に起こった、その宿の婿養子の殺人事件について話を聞き、自らも、語る話。

  一人称の書き手が、実は犯人という、いわゆる、アンフェア物ですが、短いので、騙された感は、ほとんどなく、気にするほどの事ではないです。 また、殺人事件の犯人と言っても、半分、事故ですし。 「靨」というタイトルの意味は、最後で分かりますが、美しいアイデアですな。

  この作品は、金田一物に書き直されていないようですが、金田一を入れてしまうと、一人称の書き手への感情移入が阻害されて、味わいを損なってしまうからでしょう。 その代わり、ノン・シリーズでは、短編集に収録され難くなってしまうわけですが。


【蝋の首】 約13ページ
  1946年(昭和21年)8月、「VAN」に掲載されたもの。

  火災現場から発見された2体の焼死体。 ある学者が、ほぼ白骨化した頭部に肉付けし、複顔を施したところ、一人は、その家に住んでいた妻と確認されたが、もう一人の男は、夫ではなかった。 死体がすり替えられた事が分かり、逃亡していた夫は逮捕されるが、身代わりにした白骨死体の身元が、彼ら夫婦に関係のある人物だった事が分かる話。

  短い割には、よく出来たストーリーで、推理物でなければ、ショートショートで通る話です。 因果の偶然が過ぎるような気がしないでもないですが、短編なればこそ、むしろ、面白さを感じます。


【空蝉処女】 約17ページ
  1946年(昭和21年)に、「群青」向けに書かれたが、掲載されず、作者の没後に発見され、1983年(昭和58年)8月、「月刊カドカワ」に掲載されたもの。 角川文庫旧版にも、同タイトルの本に収録されています。 タイトルの読み方は、「うつせみおとめ」。

  空襲で怪我をして、記憶を失った若く美しい女性を、岡山の山村の、ある家で預かっていた。 歌を歌う以外に、赤ん坊をあやすような仕草をするので、既婚者だったのかと疑われていたが、実は・・・、という話。

  推理物ではなく、一般小説と純文学の中間みたいな話。 記憶を失い、抜け殻のようになった女性が、山村の人気のない場所で、「山のあなた」を歌っているという、その情景を描きたいばかりに書いたんじゃないでしょうか。 女性の正体が分かると、ちと、興醒めしますが、悪い結末ではないです。 タイトルの字に、「乙女」ではなく、「処女」を使っているところが、ちょっとしたヒント。


【首・改定増補版】 約103ページ
  作者の没後に見つかった作品。 角川文庫・旧版、≪花園の悪魔≫に収録されている【首】に、細部の描写を足したもの。

  話の内容は、【首】と同じです。 描写が細かいので、「いかにも、岡山物」という味わいは深くなっています。 都会人の横溝さんにとって、疎開先で見た岡山の山中の印象には、特別なものがあったんでしょうねえ。 【首】、【鴉】、【人面瘡】の3作は、いずれも、岡山の山合いの湯治場が舞台になっていて、雰囲気はそっくりです。 話の中身は、まるで違いますけど。