7439 ≪迷路荘の怪人≫

7439.jpg

≪迷路荘の怪人≫

横溝正史探偵小説コレクション④
出版芸術社 2012年5月25日/初版
横溝正史 著

  沼津市立図書館で借りて来た本。 この、「横溝正史探偵小説コレクション」シリーズですが、2004年に、①②③が続けて発刊された後、一旦、終わっていたのを、2012年になって、作者の生誕110周年を期に、増刊する事になったとの事。 中編2作と、その2作について作者が書いた付記を、幾つか収録。 中編と言っても、2段組みなので、文庫すれば、100ページを超えます。 表題作の方は、この本でも、100ページを超えていますけど。


【旋風劇場】 約94ページ
  原型になった【仮面劇場】が、1938年(昭和13年)から、1942年にかけて、「サンデー毎日」に、断続的に掲載。 それを、1943年(昭和17年)7月に、【旋風劇場】として、刊行したもの。 題名の変更は、当局から、「仮面」はやめろといわれて、出版社が変えたのだそうです。 戦後、長編化されて、【暗闇劇場】となり、更に、改題されて、最初の【仮面劇場】に戻り、角川文庫旧版の、≪仮面劇場≫に表題作として収録されているのが、それ。

  鳴門の渦に飲み込まれようとしていた小舟から助け出された、盲聾唖の美少年を、近くにいた観光船に乗っていた未亡人が引き取る事になったが、やがて、彼女の交際している男が寄宿している一家で人が死に始め、当初から事件に関っていた由利先生と、引っ張り込まれた三津木俊助が、美少年の正体を明らかにする話。

  【仮面劇場】の方と、続けて読み比べたわけではないので、比較が難しいのですが、そんなに大幅に変わっているわけではないようです。 毒をどうやって扱っていたか、その点が異なるだけ。 いずれにせよ、いかにも、由利・三津木コンビ物らしい、草双紙趣味の活劇でして、戦後の推理ファンを満足させるような内容ではないです。

  もし、由利・三津木コンビ物の代表作を一つ選べと言われたら、この作品になるかもしれません。 【蝶々殺人事件】は、由利・三津木コンビ物としては、異色ですから。 そんな事しか、感想が出ませんなあ。 私は、こういう作品を読んでいると、馬鹿馬鹿しくなってしまうのです。 戦前と戦後で、横溝さんほど、作風が変わった作家も珍しいのでは?


【迷路荘の怪人】 約124ページ
  原型になった短編が、1956年(昭和31年)8月、「オール読物」に掲載され、その後、3倍の長さに加筆されて、1959年に、全集に収録されたのが、この作品。 更にその後、1975年5月に、加筆して長編にされたのが、角川文庫の≪迷路荘の惨劇≫という事になります。

  富士の裾野にある、元華族の別邸が、戦後、新興事業家の手に渡ったが、華族の妻まで、実質的に金で買われる形で、事業家の妻になった。 その屋敷では、十数年前に、華族の当主夫婦が殺され、犯人と思われる男も片腕を切り落とされて、行方不明になるという事件が起こっていた。 屋敷をホテルに改装する前に、事業家が、屋敷に縁のある人達を招く事になったが、そこで、新たな殺人事件が起こる話。

  【迷路荘の惨劇】の方は、手持ちの本にあって、今までに、2回、読んでいます。 舞台になっている場所が、富士市で、私の住んでいる所から近い事もあって、好きな作品です。 で、この作品は、長編化される前の、中途型中編なので、短いのですが、面白さという点では、長編の方に負けていません。 むしろ、追加されたエピソードがない分、纏まりがいいように感じられます。

  トリックより、謎より、舞台設定が、ゾクゾクするのです。 ちらちらと存在を匂わせる片腕の男や、仕込み杖、地下道、みかん倉庫の滑車など、細かい道具立ても、いいですなあ。 長編では、地下道が、自然の洞窟と繋がっていて、そちらの冒険が見せ場になっていますが、こちらでは、地下道だけ。 それでも、充分、見せ場になっています。

  こういう作品を読んでいると、妙に、心豊かな気分になります。 この感覚は、どう分析すればいいんでしょうねえ。 芸術の力とでも、考えるべきなんでしょうか。