7432 ≪聖女の首≫

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≪聖女の首≫

横溝正史探偵小説コレクション③
出版芸術社 2004年11月20日/初版
横溝正史 著

  沼津市立図書館で借りて来た本。 角川旧版の終了後、割と近年になって発行された、落穂拾い的な短編集です。 戦中期から、戦後間もない頃までの短編・中編、11作を収録。 2段組みです。


【金襴護符】 約24ページ
  1943年(昭和18年)5月、「新青年」に掲載されたもの。

  慰問袋に入れられていたお守りに隠された、家宝の地図を巡って、滑稽な奪い合いが演じられる話。

  戦時下作品にしては、オチのある喜劇で、まともな作品です。 しかし、最終的には、「欲しがりません、勝つまでは」という国の宣伝を援ける内容になっており、苦しさは隠せません。


【海の一族】
【ナミ子さん一家】
【剣の系図】
【竹槍】

  この4作は、国策賛美小説として書かれ、いずれも、「新青年」に掲載されたもの。 検閲を突破する為に、いろいろと工夫を凝らしたのは分かりますが、戦争協力してしまっている事に変わりはなく、評価のしようがありません。 これらも、横溝さんは、後世に残したくなかったでしょうねえ。 この本を出版した人達は、あの世で、横溝さんに、口も利いてもらえないと思います。


【聖女の首】 約24ページ
  1948年(昭和23年)2月、「東京」に掲載されたもの。

  実家の牧場が傾いて、東京の喫茶店で働いていた美しい娘が、彫刻家のモデルになって、胸像を作ってもらった後、三人の男から求婚されるが、ある時を境に、三人から一遍に、フラれてしまう。 実は彫刻家は、他にも、娘をモデルに、様々な表情の胸像を作っていて・・・という話。

  後に、金田一物に書き改められて、【七つの仮面】になります。 そちらの方が、長いです。 こちらは、原型短編という事になりますが、先に、【七つの仮面】を読んでいると、エピソードが少ないせいで、ちょっと、物足りなく感じます。 アイデアは、面白いです。


【車井戸は何故軋る】 約51ページ
  1949年(昭和24年)1月、「読物春秋」に掲載されたもの。

  後に、金田一物に書き改められて、【車井戸はなぜ軋る】になります。 ≪本陣殺人事件≫の時に、梗概と感想を書いているので、繰り返しません。


【悪霊】 約27ページ
  1949年(昭和24年)2月、「キング・夏の増刊」に掲載されたもの。

  後に、金田一物に書き改められて、【首】になります。 ≪首≫の時に、梗概と感想を書いているので、繰り返しません。


【人面瘡】 約32ページ
  1949年(昭和24年)12月、「講談倶楽部」に掲載されたもの。

  後に、金田一物に書き改められて、同題異作の、【人面瘡】になります。 ≪人面瘡≫の時に、梗概と感想を書いているので、繰り返しません。


【肖像画】 約16ページ
  1952年(昭和27年)7月、「りべらる・増刊」に掲載されたもの。

  後に、金田一物に書き改められて、【ペルシャ猫を抱く女】になります。 ≪ペルシャ猫を抱く女≫の時に、梗概と感想を書いているので、繰り返しません。


  以上、原型短編の5作ですが、長さが異なる【聖女の首 → 七つの仮面】は別として、【車井戸は何故軋る → 車井戸はなぜ軋る】、【悪霊 → 首】、【人面瘡 → 人面瘡】、【肖像画 → ペルシャ猫を抱く女】は、改作後も、内容は、ほとんど同じです。 無理やり、登場人物の一人を、金田一に差し替えたもので、改作後の方が、むしろ、出来が悪いです。 金田一物に書き換えざるを得ない理由が、何かあったんでしょうねえ。


【黄金の花びら】 約18ページ
 1953年(昭和28年)1月、「少年クラブ・増刊」に掲載されたもの。

  以下、ネタバレ、あり。

  仏像蒐集家の屋敷に泥棒が入り、射撃がうまい少年が、2階から威嚇射撃したところ、犯人の背中にあたり、殺してしまった。 屋敷にいた自称・小説家の男が、実験を行なって、銃弾の角度から、少年が撃った弾が殺したわけではない事を証明する話。

  少年向けの作品。 金田一が出て来ますが、最後まで、名前と職業を詐称しているので、読んでいる間は分かりません。 服装は、金田一そのものなんですが、それだけでは、確信が持てないので・・・。

  死体に撃ち込まれた弾丸の角度が、60度で、直立した人形で実験したら、同じ60度だったから、「それ見た事か、少年が撃った弾だ」と言うのを、自称・小説家が、「逃げる時には、前傾姿勢になるから、60度では、おかしい」と指摘するのですが、それも、おかしな話です。 走っている土地が下り坂になっているのなら、前傾姿勢で走ったら、怖いでしょうに。 下り坂では、体を起こし気味で走る事になるから、直立姿勢に近くなるんじゃないでしょうか。

  そういう事は、承知の上で、少年向けだから、シンプルな話にしたのだと思いますが、ちょっと、安直過ぎる感じがしないではないですねえ。