7404 ≪青蜥蜴≫

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≪青蜥蜴≫

双葉社 1996年7月5日/初版
横溝正史 著

  沼津市立図書館で借りて来た本。 こんな本があったとは、知りませんでした。 1996年という事は、横溝作品としては、だいぶ、最近になってから出た本になります。 中編1、短編4、ごく短い随想3の、計8作を収録。 カバー絵は、杉本一文さんのもの。 双葉社の本なのに、角川文庫・旧版を大きくしたような趣きがあります。

  収録作品は、いずれも、1962年から、1966年にかけて、「推理ストーリー」に掲載されたもの。 詳しく調べたわけではありませんが、【百唇譜】と【青蜥蜴】は、この本にしか収録されていないのではないかと思います。 他の作品は、角川文庫・旧版の短編集でも読む事ができます。

  ところで、ふだん、この感想文で、各作品のページ数を、「約○ページ」と書いていますが、なぜ、「約」を付けているかというと、実際のページ数ではなく、目次で、引き算して出している数字だからです。 本によって、1ページ当たりの文字数に違いがあるので、あくまで、目安に過ぎません。 ちなみに、短・中・長編の分類も、短編は、50ページ以下、中編は、51ページ以上、100ページ以下、長編は、101ページ以上という、ざっくりした分け方をしています。


【百唇譜】 約64ページ
  1962年(昭和37年)1月。

  夜、路上駐車された車のトランクから、女の死体が発見される。 それより以前に、女をたらしこんでは、唇の形をとって、コレクションし、かつ、恐喝を働いていた男が殺される事件が起こっていたが、女は、その恐喝対象の一人だったらしい。 女は、自宅で殺されて、運び出される途中、車の故障で放置されたと思われたが、実は・・・、という話。

  原型短編の一つ。 後に、【悪魔の百唇譜】とタイトルを変えて、長編化されます。 冒頭の部分は、ほとんど同じ。 中盤から、エピソードが足されて、複雑な話になって行きますが、それは、【悪魔の百唇譜】の方の話で、こちらは、基本的な謎が解けたところで、スパッと終わるので、先に、【悪魔の百唇譜】を読んでいると、何だか、途中で放り出されたような気分になります。

  プチ・ネタバレさせてしまいますと、両作では、犯人が異なります。 つまりその、推理小説とは、組み合わせのパズルであって、ちょっと組み替えるだけで、犯人を別人にする事もできるという事なんでしょう。 そういう話は、ストーリーの組み立てが緩いわけですが、後から、エピソードを足せるのであれば、どんな作品でも、緩くできると思います。


【猟奇の始末書】 約40ページ
  1962年(昭和37年)8月。

  海岸の別荘の近くにある、岩場の入り江。 そこに、ボートに乗った男女が入り込んでイチャつくのを嫌った洋画家が、洋弓で矢を射掛けて、追い払った。 ところが、その後、その入り江に浮かぶボートの上で、矢が刺さった女の死体が発見される。 洋画家が疑われるが、彼は、岩壁を狙ったと言い、実際、岩壁に矢が当たった痕があった。 別荘に招かれていた、中学時代の後輩に当たる金田一が、謎を解く話。

  舞台や小道具が、長編、【死神の矢】に、少し似ていますが、そちらは、1956年だから、こちらの方が、後になるわけで、原型短編というわけではなさそうです。 長編を、後から、短編化するという事もないでしょう。 また、ダイジェストというには、事件の中身が違い過ぎます。

  【死神の矢】は、ラストが、お涙頂戴で、横溝作品らしくない終わり方でしたが、こちらは、同じ犯人に同情するのでも、かなり、ドライで、読後感は、悪くないです。 とはいえ、本当に憎い相手を殺さずに、別人を殺して、間接的に陥れるというのは、なんだか、的外れな犯行のような感じがしないでもないですねえ。 弓矢だけに。

  この作品は、角川文庫・旧版の、≪七つの仮面≫に収録されています。


【青蜥蜴】 約50ページ
  1963年(昭和38年)3月。

  都内のホテルや旅館、3軒で、黒づくめの服を着た男が、一緒に入った女の首を絞め、女の胸に青い蜥蜴の絵を描いて姿を消す事件が、連続して起こる。 一人目の女は助かったが、二人目と三人目は、殺された。 金田一耕助が、警察関係者と共に謎を解く話。

  原型短編の一つ。 後に、【夜の黒豹】とタイトルを変えて、長編化されます。 金田一は、どちらにも出ていて、役所は、あまり変わりません。 【青蜥蜴】に、エピソードを書き足して、【夜の黒豹】にしたという格好。 先に【夜の黒豹】を読んでいると、この作品が、何となく、手抜きに感じられますが、夜、眠る前に、一作読むというのなら、断然、こちらの方が、適当です。


【猫館】 約40ページ
  1963年(昭和38年)8月。

  猫をたくさん飼っている占い師の女が、自宅で殺されるが、なぜか、上半身が裸だった。 一方、近くの寺の落ち葉溜めで、占い師の弟子の女の死体が、スカートなしの姿で発見される。 その家は、かつて、いかがわしい写真家の館で、その男は、恐喝を裏の仕事にしていた。 金田一が、現場にもう一人、女がいたのではないかと推理し、謎を解く話。

  以下、ネタバレ、あり。

  占い師の一家、寺の坊さん、幼稚園の先生、写真家、近所の画家と、この短いページ数にしては、関わって来る人物が多すぎて、ちと、ごちゃごちゃしています。 恐喝されていた事が、犯行の動機なわけですが、そのせいで、昔話まで用意しなければならなくなっており、もっと、シンプルな別の動機にした方が、すっきりしたと思います。 ちなみに、タイトルは、「猫館」ですが、猫は、死体発見のきっかけになるだけで、それ以上の役はないです。

  トリックはあるものの、ささやかなもので、読者が頭を悩ますようなものではないです。 謎は、他の作品でも読んだ事があるようなもの。 このページ数で、フー・ダニットは無理があり、犯人が女だと分かった時点で、消去法で、誰か分かります。 まあ、そういう話なんだから、別に、欠点ではありませんが。

  この作品は、角川文庫・旧版の、≪七つの仮面≫に収録されています。


【蝙蝠男】 約44ページ
  1964年(昭和39年)5月。

  ある夜、受験勉強中だった女子高生が、自室の窓から、向かいのアパートの窓に映った影で、女が殺されるのを目撃する。 やがて、そのアパートの住人の女が、勤め先のナイト・クラブの楽屋で、トランクの中から発見される。 女子高生の証言を受け、金田一が、窓の影の謎を解く話。

  60年代半ばは、大学受験をする女子が増えて来ていた頃だったんでしょうねえ。 窓の陰を目撃するのは、別に、誰でもいいわけですが、わざわざ、女子高生にしたというのが、面白いです。 横溝作品では、ちょこちょこと、少女趣味が挟まりますな。 もっとも、横溝さんが描く少女は、媚びたところがなく、ドライで、リアルですけど。 娘さんがいたから、現物を観察していたのかもしれません。

  トリックが、謎になっています。 しかし、これは、読みながら推理できるものではなく、ラストの謎解きを読んで、「ああ、そういう事だったのか」と分かるだけです。 それでも、結構、面白いのだから、推理小説の勘所が、必ずしも、「推理しながら読める」点にあるわけではないという事が分かります。

  この作品は、角川文庫・旧版の、≪七つの仮面≫に収録されています。


【歩き、歩き、かつ歩く】 約4ページ
  1964年(昭和39年)9月。

  編集者から逃れる為に、散歩ばかりするようになった事を書いた、随筆。 最後に、オチがついています。


【桜の正月】 約4ページ
  1965年(昭和40年)2月。

  岡山県の桜に疎開していた頃に、兎を飼っていて、その肉を正月に食べたという思い出話。


【ノンキな話】 約6ページ
  1966年(昭和41年)6月。

  時折、懸賞小説に応募する程度の文学青年だった横溝さんが、江戸川乱歩さんのスカウトによって、東京に引っ張り出され、なし崩しに、編集者にされ、更には、作家になってしまった、大雑把な経緯を記したもの。 最後に、オチがついていますが、それは、どうも、創作っぽいです。


  随想3作は、≪金田一耕助のモノローグ≫か何かで、似たような内容の文章を読んだような気がします。 いずれも借りて来た本で、手元にないので、確認できませんけど。