7397 ≪悪魔の設計図≫

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≪悪魔の設計図≫

角川文庫
角川書店 1976年7月30日/初版
横溝正史 著

  相互貸借で、取り寄せてもらった本。 小山町立図書館の蔵書です。 カバー付きで、状態は非常に良く、背表紙に、「閉架」のシールがあります。 長編1、中編1、短編1の、計3作を収録。


【悪魔の設計図】 約80ページ
  1938年(昭和13年)6・7月に、「富士」に連載されたもの。

  敏腕新聞記者、三津木俊助が、静養先の信州で、旅芝居を見に行ったところ、舞台上で、殺人事件が起こる。 狙われたのは、ある人物の遺産相続人候補で、遺言には、子供達が互いを殺しあうような仕掛けが施されていた。 最初の妻の息子が犯人ではないかと疑われるが、実は・・・、という話。

  由利先生も登場します。 三津木俊助は、単独で出る時には、探偵役を兼ねますが、由利先生と一緒の時には、推理は先生に任せて、自分は、アクション担当に回ります。 良く考えられた役割分担ですが、三津木俊助というキャラを作ってしまったせいで、必ず、活劇場面を入れなければならなくなり、却って、枷になってしまった恨みがなきにしもあらず。

  冒頭の芝居の部分は、戦後に、金田一物として書かれる、【幽霊座】に似ています。 ただし、事件の中身は、全然違っていて、この作品では、芝居の部分は、別に、ストーリー上、絶対に必要というわけではありません。 とにかく、誰かが、命を狙われている事が分かればいいわけだ。

  子供達が互いに殺しあう遺言というのは、これまた、戦後に、金田一物として書かれる、【犬神家の一族】で、再度、使われます。 こちらの設定は、ストーリー上、必要なものですが、【犬神家の一族】のそれと比べると、描き込みが、全然貧弱で、この遺言の恐ろしさを活かしきれていません。 この作品での心残りがあって、練り直して、再使用したんでしょうねえ。

  全体的に見て、さして、面白いという話ではないです。 冒頭の芝居部分だけ、由利・三津木物としては変わっているので、期待が膨らむのですが、東京に戻ってからは、普通の展開になり、普通に終って行きます。 やはり、動機に、狂気が含まれていると、白けた読後感が残りますねえ。 狂っているのでは、何でもアリになってしまいますから。


【石膏美人】 約150ページ
  1936年(昭和11年)5・6月に、「講談倶楽部」に連載されたもの。 掲載時のタイトルは、【妖魂】。

  三津木俊助が乗った車がぶつかったトラックに、俊助の婚約者そっくりの石膏像が載せられていたのを見て、追跡して行くと、婚約者の家の裏にある家に入って行った。 その家の主と、婚約者の父親は、学者同士で、懇意にしていた。 主の息子が殺される事件が起こり、トラックを運転していた男が疑われるが、正体が掴めない。 警察を辞めた後、姿を消していた由利先生が帰って来て、俊助と共に、事件を解決する話。

  以下、ネタバレ、あり。

  この作品が、由利・三津木コンビ・シリーズの、第一作だそうです。 そのせいで、由利先生の経歴が、細かく書かれています。 ただし、分かるのは、経歴と外見だけで、性格は、描かれていません。 それは、由利先生の最終作品まで、一貫しています。 戦前の横溝さんは、「探偵に、人格は不要」と考えていたらしく、わざと、無色透明なキャラにしていたのかも知れませんな。

  三津木俊助の方は、婚約者が出て来たリして、他の作品と毛色が変わっていますが、この婚約は、最終的に、駄目になります。 だから、その後の作品の俊助には、女っ気がない、というか、私生活の匂いが全くしないんですな。 俊助の方も、人格レスで、金田一に比べると、スカスカな感じがします。

  話の方は、由利・三津木物としては、良く出来ている方。 しかし、面白いというところまで行きません。 ある人物の行為が原因で、恨みが発生し、事件が起こるのですが、その、ある人物が、目立たない人なので、終わりの方で、突然、「実は、私が・・・」と告白されると、「えっ! この人が鍵だったの?」と、肩透かしを食わされてしまいます。

  石膏像は出て来ますが、中に死体が入っているわけではないです。 昭二という、耳が聞こえない少年が出て来て、読唇術で、何かを知るというモチーフが使われていて、そこだけ、少し、ゾクゾクしますが、なんと、この少年、何を知ったか喋る前に、殺されてしまいます。 つまらん! 何の為に出て来たのじゃ!


【獣人】 約44ページ
  1956年(昭和10年)9月に、「講談雑誌」に掲載されたもの。

  若い女性のバラバラ死体が発見される。 死体には、棘で刺したような傷が、たくさんついていた。 まだ、警察に入る前の由利麟太郎が、偶然に、事件に関わり、有名な学者の屋敷を調べて、秘密を暴く話。

  こんな梗概では、何も伝わりませんな。 由利先生は、まだ若造で、推理部門の他に、アクション部門も担当し、三津木俊助と大差ないような事をやっています。 鮎川珠枝という、ヒロインが出て来ますが、別に、恋愛関係になるわけではないようです。

  「死の抱擁」という名の鎧が出て来たり、ゴリラが出て来たり、戦後に書かれる、少年向け作品のモチーフが、すでに、使われています。 モチーフが同じという事は、この作品のレベルも、少年向けという事でしょうか。 科学的根拠がない薬品が出て来るのは、推理物としては、失格ですが、その点も、少年向けっぽいですな。