7362 ≪女が見ていた≫

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≪女が見ていた≫

角川文庫
角川書店 1975年8月30日/初版 1978年4月30日/17版
横溝正史 著

  私の手持ちの本。 1995年9月頃に、沼津・三島の古本屋を回って、横溝正史作品を買い漁った内の一冊です。 買った直後に、一度読み、引退後の2015年にも、読んだと思うのですが、内容を全く覚えていませんでした。 金田一や等々力警部が出て来ない長編で、その割には、面白かったような記憶だけあったのですが、面白かったのに、覚えていないというのは、どういう事なのか?

  1949年5月5日から、10月17日まで、新聞「時事新報」に連載されたもの。 新聞連載で、推理小説を書くのは、毎回、読者の興味を次回に繋いで行く書き方をしなければならないので、難しいらしいです。 確かに、ブツ切り的なところや、「前回までの説明」的な繰り返しが出て来て、書下ろしや、月間誌連載とは趣きが異なります。 一冊で一作品、約350ページの長編です。


  不仲な妻と喧嘩した作家が、銀座を飲み歩いている内に、三人の女に代わる代わる尾行されている事に気づく。 酩酊状態で家に戻った作家が、同居している新聞記者から、妻が銀座の店に呼び出されて、殺されたと知らされる。 現場に、自分の持ち物があったと聞き、容疑をかけられる事を恐れた作家は、姿を隠し、昔の知りあいに、自分のアリバイを証明してくれるはずの、三人の女を探してくれるように頼む。 ところが、その女達が、次々と・・・、という話。

  今回、読んだのが、3回目になるわけですが、やはり、面白かったです。 なんで、面白いのに、時間が経つと、綺麗さっぱり忘れてしまうんでしょう? 探偵役が、はっきりしていないからでしょうか。 作家の昔の知り合いというのが、一応、探偵役なのですが、必ずしも、彼が解決するわけではなく、自然に、犯人が特定されてしまうという流れ。 これといって、中心人物はおらず、群像劇です。 

  特殊な性格を持った人物が、二人出て来ます。 新聞記者と、作家の恩師の妻。 どちらも、精神異常者というわけではなく、性格異常ですらないんですが、極端に特徴的な性格で、他人に害を及ぼし、人間関係に波風を立てるのが大好きというもの。 こういう人達は、現実に存在するので、描写が大変、リアルに感じられます。

  その二人に比べると、他の登場人物は、没個性で、あまり、面白みがありません。 特に、作家の妻は、殺人事件の被害者というヘビーな役所であるにも拘らず、全くと言っていいほど、性格を書き込まれておらず、その点、大いに、リアリティーを欠きます。 こんな特徴のない人間が、なぜ、殺されなければならないのか、そこが、納得できません。

  あと、細かい事ですが、ラスト近くに出て来る、犯人の告白文が、漢字カタカナ混じりになっていて、腹が立つほど、読み難いです。 戦後間もない頃なら、漢字カタカナ混じり文を読みなれた人が多かったから、問題なかったのでしょうが、今では、もう、全然、駄目でしょう。 大ブームの頃ですら、スイスイ読めた人などいなかったはず。 これは、横溝さんの存命中に、許可を取って、修正すべきだったんじゃないでしょうか。