7355 ≪スペードの女王≫

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≪スペードの女王≫

角川文庫
角川書店 1976年2月25日/初版 1976年3月20日/2版
横溝正史 著

  相互貸借で、取り寄せてもらった本。 小山町立図書館の蔵書です。 「閉架」のシールあり。 元からのカバー付きで、ビニール・コートも被せてありませんが、破れもなく、状態は良いです。 メジャー作品ではないから、開架にあった時にも、借りる人が少なかったのかも知れませんな。

  ≪スペードの女王≫は、解説によると、1960年6月に、書き下ろしで刊行されたもの。 ネット情報では、1958年6月に、「大衆読物」に掲載されたとありますが、どちらが正しいのか分かりません。 一冊一作品の、堂々たる長編です。 しかし、メジャー作品と比べると、内容的にも、ページ数的にも、やはり、見劣りします。 通俗物ではなく、本格トリック物。


  老刺青師が、訪ねて来た女に、秘密の場所に連れて行かれ、そこに眠らされていた別の女の股に、スペードのクイーンの刺青を彫らされた。 依頼した女の股にあった刺青を写したのだが、その女の刺青も、同じ刺青師が、数年前に彫ったものだった。 その後、刺青師が変死を遂げ、首なしの女の死体が海に浮かぶ。 その股には、スペードのクイーンの刺青があったが、さて、殺されたのは、どちらの女か・・・、という話。

  顔のない死体もの。 本格トリック物の横溝作品には、このカテゴリーが、大変、多いです。 この作品の特徴は、最初から、股に同じ刺青がある女が二人いる事が、読者に知らされていて、「これを、どういうストーリーにして行くのかな?」と、そちらへ興味を引っ張って行くところにあります。

  以下、ネタバレ、あり。

  同じカテゴリーの話を、いくつも書いている横溝さんだけに、捻りに捻って、複雑な展開になっています。 犯人が途中で変わるという、掟破りとも言える手法が使われていて、あっと驚かされます。 意外な犯人どころの話ではなく、こんなの、推理しながら読むなんて、絶対に無理ですな。

  顔がない死体ものでは、被害者と思われていたのが、実は、加害者で、死んだと見せかけておいて、実は、すり変わって、生きているというのが、普通のパターン。 それを、更に、引っ繰り返して、被害者に見せかけるつもりだった加害者が、ほんとに被害者になってしまったというのが、この作品なわけです。 ネタバレはネタバレですが、「たぶん、そんな事じゃなかろうか」という感じは、かなり、早い段階で分かります。

  分かった上で読んでも、面白いです。 ≪夜の黒豹≫のように、聞き取り場面の会話で、水増しするような事はしておらず、結構、ちょこちょこと、場所が変わるので、変化があって、読み応えがあるのです。 刺青師の妻から又聞きした話を元に、刺青現場の部屋を捜索する場面は、宝探しの冒険物のようで、ゾクゾクしますなあ。

  緑ヶ丘にある、金田一の事務所兼住居が、ピストルを持った犯人に狙われ、等々力警部や、所轄署の刑事部補が駆けつけてくる場面も、、臨場感があって、面白いです。 なぜ、この作品が、映像化されていないのか、不思議。