7348 ≪夜の黒豹≫

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≪夜の黒豹≫

春陽文庫
春陽堂書店 1997年12月/新装初版
横溝正史 著

  相互貸借で、取り寄せてもらった本。 伊東市立図書館の蔵書です。 春陽文庫の横溝作品は、もっと以前からありますが、この本は、新装版で、カバー絵が新しくなっています。 改版というわけではないようで、文字サイズや、文字間・行間の広さは、それ以前のものと変わりません。 カバー絵は、坂本勝彦さん。 うまい絵ですなあ。

  ≪夜の黒豹≫は、1963年3月に、「推理ストーリー」に掲載されたものですが、その時には、≪青蜥蜴≫というタイトルだったそうで、その後、改稿されて、≪夜の黒豹≫になったとの事。 内容的には、≪青蜥蜴≫の方が、ぴったり来るタイトルです。 江戸川乱歩さんの
≪黒蜥蜴≫と紛らわしいから、変えたんでしょうか? 内容は、似ても似つきませんが。


  都内のホテルや旅館、3軒で、黒づくめの服を着た男が、一緒に入った女の首を絞め、女の胸に青い蜥蜴の絵を描いて姿を消す事件が、連続して起こる。 一人目の女は助かったが、二人目と三人目は、殺された。 三人目の女子学生と関係があった、エロ・グロ画家の青年に容疑がかかるが、捜査に加わっていた金田一は、別の見方をしていて・・・、という話。

  タイトルからして、てっきり、≪悪魔の寵児≫や、≪幽霊男≫と同類の、通俗物だと思っていたんですが、読んでみたら、そうではありませんでした。 分類するなら、本格トリックものです。 ただし、メジャーな長編と同列に語れるものではなく、本来なら、短編用に考えられた話を、聞き取り場面を細々と描き込む事で、引き伸ばして、長編にした作品です。

  聞き取り場面が細かいという事は、たとえば、地の文で書けば、半ページで終わるところを、5・6ページかけて書いているわけで、ページがどんどん進むのはいいんですが、ページ当たりの情報量が少ないので、話の進みは、逆に遅くなり、大変、まどろっこしいです。 とりわけ、女性キャラの話し方が、遠回りばかりしていて、非常に、読み難い。 イライラして来るくらい。

  謎・トリックは、割とありふれた、一人二役系の入れ替わりもので、ゾクゾクするほどのものではないです。 事件部分だけ見ると、何となく、コリン・デクスター作品に似たような雰囲気ですが、発表は、こちらの方が先。 しかし、別に、横溝さんが、オリジナルというわけではなく、いろんな作家が、似たような話を書いているのでしょう。

  1963年というと、横溝さんの戦後活躍期の末期でして、この作品の後は、≪仮面舞踏会≫を途中まで書いて、そこで、新作の筆を折ってしまいますから、完成作としては、これが最後という事になります。 その後、10年以上経ってから、角川春樹さんの仕掛けによる、空前の横溝大ブームが来て、執筆が再開され、≪仮面舞踏会≫が完成し、≪病院坂の首縊りの家≫や、≪悪霊島≫が、新たに書かれるわけですが、この作品を書いていた頃には、そんな未来が待っているとは、全く思っていなかったでしょうねえ。