7236 ≪首 【金田一耕助ファイル11】≫

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≪首 【金田一耕助ファイル11】≫

角川文庫
角川書店 1976年11月/初版 1986年5月/18版 2003年5月/改版10版
横溝正史 著

  三島市立図書館の書庫にあった本。 角川文庫ですが、1990年代になって、「金田一耕助ファイル」として、再編された新装版。 旧版では、【花園の悪魔】が表題作だったらしいですが、収録作品は同じです。 表紙は、絵ではなく、書で、文字は、「首」。 中編4作品を収録しています。


【生ける死仮面】 約70ページ
  発表データ、不明。 新装版には、解説がないものが多いようです。 旧版なら、書いてあると思うんですが、ネットで調べても分かりませんでした。 たぶん、1950年代半ば頃の作品だと思います。

  アトリエで、少年の腐乱死体が発見され、その傍らで、デス・マスクに彩色していた美術家が逮捕される。 デス・マスクから少年の身元が割れ、美術家の男色癖から起こった死体玩弄事件かと思われたが、金田一が、腐乱死体とデス・マスクが同一人物とは限らないと言い出し、等々力警部らが、振り回される話。

  首のない死体物のアレンジで、種明かしまで読んだ後で振り返ると、犯人の頭の良さが分かって、面白いです。 確かに、腐乱死体の傍らで、デス・マスクを愛おしそうに弄っていれば、その死体のデス・マスクだと思いますわなあ。 今なら、DNA鑑定で、すぐにバレてしまいますが、当時は、せいぜい、血液型くらいしか、調べようがなかったですから。

  「自然に起こる性転換」も、モチーフの一つになっていますが、そちらは、なくても、話は成り立ちます。 そちらはそちらで、中心テーマにして、別の話を作った方が良かったのでは? 中編のアイデアの一部として使ってしまったのでは、勿体ない。
   

【花園の悪魔】 約52ページ
  1954年(昭和29年)2月に、「オール読物」に掲載されたもの。

  東京近郊の温泉宿で、離屋に投宿した女が、宿付属の花園の中で、全裸死体で発見される。 すぐに、女の交際相手の青年が、容疑者として浮かび、指名手配されるが、行方はが掴めず、捜査は滞ってしまった。 1ヵ月半も過ぎた頃、金田一が現れ、等々力警部を、容疑者のところへ案内する話。

  途中から、ひょっこり顔を出した金田一が、等々力警部に、いきなり、謎解きをしてしまうという、妙に胸のすく展開です。 こういう話の時には、金田一が、シャーロック・ホームズ以上の名探偵に見えますねえ。 何せ、出て来た時には、もう、ほとんどの謎が解けているのだから。

  トリックも、謎も、舞台も、短編としては、十二分の内容で、完成度が高い作品です。


【蝋美人】 約90ページ
  1956年(昭和31年)、初出発表。 これも、ネットには出ていなくて、手持ちの春陽文庫「横溝正史長編全集18【蝋美人】」にある、僅かなデータで、発表年が分かるのみです。 「蝋」の字は、本来、旧字。

  名門学校を創設した教育一家に、息子の後妻として入った放埓な映画女優が、夫殺しの嫌疑を受けたまま、失踪する。 一年後、発見された白骨死体に、ある法医学博士が、肉付けして、復元したところ、その顔は、失踪した女優そのものだった。 しかし、その博士が教育一家と遺恨ある関係だった事が分かり、更に、博士本人が殺されてしまう。 金田一が、一年前の事件を、オルゴールの音から解きほぐし、顔復原のトリックを暴く話。

  面白いです。 復元した像のお披露目場面は、大変、ビジュアル的で、横溝作品の面目躍如というところ。 一年前の事件で止まったオルゴールの謎も、鮮やかというほどではないですが、なかなかのゾクゾク感があります。 このページ数で、これだけ、読み応えがあるのは、完成度が高い証拠ですな。

  この作品、古谷一行さん主演、「白蝋の死美人」というタイトルで、2004年に、ドラマ化されています。 女優役は、杉本彩さん。 古谷一行さんのシリーズとしては、終りから二番目という新しさで、新しくなるほど、出来は悪くなるんですが、この作品に限っては、完成度が高いです。 特に、音楽が良い。


【首】 約79ページ
  1955年(昭和30年)5月に、「宝石」に掲載されたもの。

  岡山の山村で、300年前に、一揆代表の生首が曝された岩の上に、一年前、近くの宿の婿養子が、同じように、生首を載せられて、殺された。 その事件を解かせるべく、磯川警部が、休暇と騙して、金田一を誘い込んだところ、今度は、映画のロケに来ていた監督が、生首にされてしまう・・・、という話。

  生首が三つも出て来て、ちと、多過ぎ。 しかし、やはり、三つないと、話が成立しないんですな。 それは仕方ないとしても、宿の部屋の天袋から、書き置きが出て来て、その一部を金田一が、たまたま見つけて、謎解きに繋がるというのは、ちと、偶然が過ぎませんかね。 更に、それに目を瞑るとしても、他人の使った方法で、もう一度、殺人事件を起こすというのは、やはり、リアリティーを欠きますなあ。 300年前ならともかく、現代の警察は、「○○様の祟り」では、そうそう騙されてはくれんでしょう。

  以下、ネタバレ、あり。

  ラストは、第二の生首事件について、不問という事になるのですが、金田一だけならともかく、磯川警部は、立場上、そうはいかんでしょう。 それが罷り通ってしまったら、警察は不要という事になってしまいます。 もっとも、相手が、古狸の磯川警部だったから、そういう談合もありと考えたのかも知れません。 もし、等々力警部が相手だったら、金田一も、腹芸を求めたりしなかったと思います。