7187 ≪黒の様式≫

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≪黒の様式≫

新潮文庫
新潮社 1973年9月25日/初版 1975年12月30日/9版
松本清張 著

  清水町立図書館にあった本。 カバーはないです。 新潮文庫の表紙は、この頃から、変わりませんな。 葡萄のマークで。 もっとも、最近は、文庫本を、ほとんど買っていませんから、今も同じかは知りませんけど。

  ≪黒の様式≫は、1967年(昭和42年)1月から、「週刊朝日」に掲載されたシリーズで、その内、3作までが、この文庫本に収録されています。 「中編集」という言葉かないから、短編集になっていますが、長さ的には、みな、中編です。 短編と思って読み始めると、長いので、要注意。


【歯止め】 約88ページ
  遊んでばかりで、大学受験が心配な息子を抱えた母親が、20年前に自殺した姉の元夫に、偶然出会う。 たまたま、息子の担任が、その元義兄の学生時代の事を人伝に知っていて、その話から、姉の死の原因に疑惑を抱く事になり、夫とともに、推測を逞しくして行く話。

  推理小説ですが、かなり、変わっています。 破格、もしくは、異色と見るべきなのか、完成度が低いと見るべきなのか、評価に迷うところ。 推理の内容は、読者に伝わりますが、犯人を問い詰めるわけでもなければ、逮捕されるわけでもなく、ただ、推理をして終わりなのです。

  メイン・テーマは、エディプス・コンプレックスでして、それだけでも、抵抗がありますが、モチーフに自慰行為を盛り込んでいるところが、また、問題。 自慰行為を、頭が悪くなる原因と決めて書いているのは、古い知識ですなあ。 それはまあ、耽り過ぎれば、時間をとられて、成績は落ちるでしょうけど。 1967年頃は、まだ、そういう考え方を残している人が多かったという事なんですかねえ。

  ところが、この作品、船越英一郎さんが、その息子役で、ドラマ化されているのです。 日テレ系の火曜サスペンス劇場で、1983年4月5日放送だったとの事。 私は、再放送で見ているのですが、なんと、大きな川の河川敷のような所で、息子が自慰行為をするという、あっと驚く場面がありました。 原作にない場面なんですが、それでなくても問題がある原作を、もっと問題があるドラマにしようとしたんですかねえ。 気が知れません。


【犯罪広告】 約92ページ
  失踪したと言われていた母親が、実は再婚相手の男に殺されたに違いないと気づいた青年が、すでに殺人の時効が過ぎていた事から、元義父が住む村に戻り、その罪状を細かく書いた犯罪広告を、村中に配布する。 母親の遺体は、元義父の家の床下に埋められていると主張し、警察や村人立会いの下に、床下を掘るが、死体は出て来ない。 ところが、その夜から、青年の姿が見えなくなり・・・、という話。

  以下、ネタバレ、あり。

  これも、変わっていますが、犯罪広告から始まる出だしだけで、その後は、割と普通の展開になります。 「○○を、どこに隠したか」というタイプの謎。 この作品の場合は、死体です。 青年の推理が、2回も間違えるのですが、そこが面白いとも言えるし、そこが白けるとも言えます。 さすがに、2回間違えると、信用できなくなりますから。 3回目で当てるのですが、もう手遅れ。

  犯人が誰かは、最初から明々白々で、それが最終的に逮捕されるのは、まあ良いとして、主人公が途中で殺されてしまうので、読後感が、非常に悪いです。 善悪バランスがとれていないわけだ。 わざと、バランスを崩したのだと思いますが、そういう面で、破格をやられても、面白いとは感じません。

  この作品は、1979年1月20日、テレビ朝日系の土曜ワイド劇場で、ドラマ化されています。 初放送の時に見ましたが、私はまだ、中2でした。 「ウミホタルだーっ! ウミホタルが出たぞーっ!」と人々が叫ぶ、冒頭の宣伝専用場面を覚えています。


【微笑の儀式】 約112ページ
  ある法医学者が、奈良の古刹で出会い、一緒に仏像の微笑について論じた彫刻家が、その後、展覧会に、女の顔の像を出品して、話題になった。 会場に来ていた保険会社の男から、その像にそっくりな顔をした女が最近殺されたと聞いて、法医学者が事件について調べて行く話。

  以下、ネタバレ、あり。

  「笑っているような死に顔」が、謎でして、それは、あるガスを吸った効果によって、そうなるのですが、まず、そこから発想して、前の方へ肉付けして行って、作り上げた話だと思います。 それが分かってしまうと、ちと、白けます。 冒頭の、奈良の古刹の場面が、推理小説らしくない、美学的な雰囲気で、趣きがあるだけに、ラストが、単純な謎で終わっていると、物足りなさを感じるのです。

  感心しないのは、水増しが見られること。 法医学者は、顔馴染みの刑事を始め、複数の人物から、捜査報告を聞くのですが、同じ事項に関する報告を、別の人物から、もう一度聞く事があり、普通は、「内容は同じであった」で済ませるところを、わざわざ、全部繰り返していて、それだけで、1.3倍くらい長くなっています。

  こういうのは、アリなんですかね? 編集者は、OKしたわけですが、もし、デビュー間もない新人が、こういう書き方をしたとしたら、問答無用で、没でしょう。 「おいおい、なめとんのか?」と言われてしまいそうです。 作者が、実績十分の売れっ子だから、許されたわけですな。

  この作品も、ドラマで見た記憶があり、内藤剛志さんが彫刻家役をやったのがそうではないかと思っていたのですが、調べたら、やっぱり、それでした。 法医学者役は、役所広司さんだったらしいですが、忘れていました。 初放送は、1995年3月7日で、日テレ系の火サス。 これは、初放送の時にも見たし、再放送でも見ています。