6900 ≪フランス白粉の謎≫

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≪フランス白粉の謎≫

創元推理文庫
東京創元社 1961年3月初版 1987年6月52版
エラリー・クイーン 著
井上勇 訳

  沼津市立図書館にあった本。 きったない本ですなあ。 もし、古本屋に持ち込んだら、「こんなものに値段がつくと思うか!」 と、怒られてしまうくらいに、ひどい。 どうも、沼津図書館にあるエラリー・クイーンの文庫本は、ほとんどが、こんな状態のようなのですが、買い換えてくださいよ、いい加減。

  発表は、1930年。 「国名シリーズ」の、第2作です。 ≪ローマ帽子の謎≫と同じく、タイトルの国名と、話の中身は、ほとんど関係ありません。 そもそも、口紅は出て来ますが、白粉は出て来ません。 原題は、≪The French Powder Mystery≫で、単に、「フランスの粉」。 もし、英語の隠語で、麻薬の事を、「French Powder」と呼ぶのなら、麻薬は出て来ます。 あくまで、「もし」で、推測に過ぎませんが。


  サイラス・フレンチ氏が経営する、フレンチ百貨店の室内装飾展示室で、フレンチ氏の後妻の死体が発見される。 早速、ニューヨーク市警を引き連れて乗り込んだクイーン警視と、その息子エラリーが捜査を進める内に、殺害現場が、デパートの最上階にある、フレンチ氏の私室で、そこから、死体が階下に運ばれた事が分かる。 殺人事件と前後して行方不明になっている、後妻の連れ子が、麻薬中毒だった事や、デパートの書籍部門が、麻薬取引に関わっていた事が分かって、容疑者が絞り込まれて行く話。

  借りて来たのは、この一冊だけで、2週間用意して読んだのですが、なかなか、興が乗らず、手こずりました。 ≪ローマ帽子の謎≫でも同じでしたが、ニューヨーク市警の面々が、嫌悪感を覚えるくらいに横柄で、人を人とも思わぬ態度で現場を仕切るせいで、ムカムカするばかりで、ページが先に進みません。

  また、ヴァン・ダインの影響が、もろに出ていて、やたらと、関係者からの聞き取り場面が長いのも、うんざりさせられます。 エラリーが、経営者の私室を調べに行くと、急に動きが出て、小説っぽくなります。 その後、また、聞き取りに戻ってしまうのですが・・・。 この作品を書いていた時点では、まだ、作者が、自分のスタイルを確立していなかったのだと思います。

  以下、ネタバレ含みます。 経営者の机の上に並んでいた、カテゴリーがバラバラの本から、デパートの書籍部門が、麻薬取引の連絡場所に使われていた事が判明する件りになると、俄然、面白くなり、ゾクゾク感が盛り上がってきます。 一定の暗号的法則で選ばれた本に、取引場所が書き込まれているというものなのですが、児戯に等しいと言えば言えるものの、それが面白いのだから、仕方がありません。 ポーの≪黄金虫≫から始まったものと思いますが、こういうパズル的な要素は、やはり、推理小説には必要だと思わされますねえ。

  作者お得意の、理詰めに走って、不自然になっているところもあります。 ウィーヴァー秘書が、書籍部責任者の奇妙な行動に気づいて、同じ本を収集したのは良いとして、なぜ、それを、経営者の机の上に並べなければいけないのかが、分かりません。 普通、自分のロッカーとか、自宅とか、他人に知られない所に置くんじゃないですかね? 単に、「偶然、犯人の目に触れた」という流れにしたいが為に、御都合主義で、そんな所に並べさせたとしか思えません。

  犯人の絞り込みですが、指紋検査の粉を使ったと分かった時点で、容疑者は、二人になってしまい、その内の一人は、最初に出て来た後、全く、出番がありませんから、残りは一人になって、もう、そいつ以外あり得ない事が、分かってしまいます。 「そう思わせておいて、別に犯人がいる」という誤誘導かと思いながら、読み進んだのですが、結局、そいつが犯人で、何の捻りもありませんでした。 1930年では、長編推理小説は、まだまだ、草創期の内ですから、完成度が高くないのも致し方ないのか・・・。

  あと、この作品には、人種差別表現が出て来ます。 原作の問題なのか、翻訳の問題なのかは、不明。 同じ創元推理文庫で、訳者が、ヴァン・ダイン作品と同じ人ですから、出て来ても、不思議はないです。 ヴァン・ダイン作品の感想でも書きましたが、1961年の発行なら、この種の表現があっても、目くじら立てる人は、少なかったでしょう。 だけど、同じ版を、1987年まで刷っていたとなると、無神経と言わざるを得ません。