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zoom RSS 6886 ≪ローマ帽子の謎≫

<<   作成日時 : 2018/04/15 08:18   >>

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≪ローマ帽子の謎≫

創元推理文庫
東京創元社 1960年12月初版 1988年2月55版
エラリー・クイーン 著
井上勇 訳

  沼津市立図書館にあった本。 これも、きったない本だのう。 水没痕こそないものの、汚れ、折れ、皺と、コンディションの三悪が揃っています。 有名どころの作品なのだから、新しい版に買い換えればいいのに。 こんなものを貸し出しているのは、図書館の恥と言っても良いのでは?

  発表は、1929年。 エラリー・クイーンという作家は、アメリカ人の二人組で、ヴァン・ダインが、アメリカで推理小説を復興させたのを見て、自分達も書こうという気になり、最初に発表したのが、この作品です。 「国名シリーズ」と呼ばれている、初期の作品群の第一作。 昔の文庫本の文字サイズで、430ページもある、かなりの長編です。 読むのに、8日間もかかりました。 長いからというより、興が乗らないから。


  活劇が大当たりしている、ニューヨークの≪ローマ劇場≫で、上演中に、弁護士が毒殺される事件が起こり、早速、部下の一団を連れて現場に乗り込んだクイーン警視と、その息子の推理作家、エラリーが、被害者のシルク・ハットがなくなっていた事を、最大の手掛かりとして、背景にある恐喝事件を探り出し、殺人犯を特定して行く話。

  ややこしいですが、クイーン警視のフル・ネームは、「リチャード・クイーン」、息子の方は、「エラリー・クイーン」で、作中では、「クイーン」と言ったら父親の方、「エラリー」と言ったら、息子の方と、書き分けています。 作者の名前も、エラリー・クイーンなので、一人称かというと、そうではなく、三人称で、全然、違う人物が、小説体に記録したという設定になっています。 「ややこしいにも、限度がある!」と、机を叩きたくなるところですが、まあ、落ち着いてください。 実際に読んでみれば、混乱するほどではないです。

  で、記念すべき第一作なんですが、どうにもこうにも、誉めようがありません。 推理小説としての、謎のアイデアは良いと思いますが、書き方に問題があり、ダラダラと、異様に長ったらしく、小説としては、明らかに失敗しています。 ヴァン・ダイン作品を踏み台にして、それ以上を狙った形跡がアリアリと見受けられるのですが、ただ、描写を細かくしただけでは、それ以上にはなり得ますまい。

  それに、細かい描写をしても、アメリカが舞台だと、イギリスのような、濃密な感じが出ないのには、哀しいものがありますなあ。 冒頭から出て来る警官たちが、妙に粗暴に感じられるのは、いかにもアメリカンな印象です。 これだもの、アメリカのミステリー界が、ハード・ボイルドに流れて行ってしまうわけだ。

  探偵役を、クイーン警視とエラリーの、二人にしてしまったのが、また、いけない。 一つの作品に、二人の探偵役を出すと、どうしても、どちらかが鋭くて、どちらかが鈍くになってしまうのですが、この作品では、クイーン警視の方が鈍くされており、それでいて、実質的な主人公が、クイーン警視なものだから、収まりが悪いというか、バランスが悪いというか、すっきりしない配役になっているのです。

  更に、ヴァン・ダイン作品の真似方に事欠いて、ファイロ・ヴァンスの嫌味ったらしい性格を、エラリーに移植しているのが、顰蹙もの。 よりによって、どうして、最も評判の悪い要素を真似たのか、意図が分かりません。 古典知識のひけらかしなんて、気障なだけで、聞かされる方は、不愉快千万。 何の魅力にもならないと思うんですがねえ。

  「ローマ帽子」という名前の帽子があるわけではなく、ローマ劇場で、シルク・ハットが消えたから、ただそれだけの関連で、こういうタイトルになっています。 国名シリーズとは言いながら、その国と必ず関係があるわけではないわけだ。 劇の内容も、ローマとは、何の関係もないです。

  帽子がいくつも発見されるクライマックスには、多少、ゾクゾク感があますが、よく考えてみると、「警察で、家中隈なく捜した割には、そんな場所に気づかないのは、迂闊過ぎるんじゃないの?」と思わないでもないです。 クライマックスと、逮捕場面、謎解き場面がズレていて、逮捕場面は、ただの活劇、謎解き場面は、クイーン警視が喋るだけで、ちっとも面白くないです。

  謎と、推理、捜査過程は、とことん、理詰めで、そういうのが好きな人なら、評価が高くなると思います。 アイデアに対して、ストーリーの語り方が、追い付いていない感じ。 ちなみに、理詰めが苦手な人でも、割と早い段階で、犯人の見当はつきます。 私は、犯人の最初の言動で、「ああ、こいつだろう」と思ったのですが、それが当たりでした。 そういうところを気取らせてしまうようでは、いい推理小説とは言えません。

  トドメに、量的には、ほんのちょっとですが、肝腎要の、犯人の素性について語っている部分に、人種差別が出て来ます。 動機の根幹に関わるような事で、さらっと読み流せないところです。 ヴァン・ダインだけでなく、エラリー・クイーンも、結局、こういう作家なのか・・・。

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